ちっちゃくて可愛いけどすごく強い生き物は好きですか?
にゃべ♪
第1話 猫嫌われ体質の僕の前に現れた可愛い子猫
まだ梅雨も始まっていない6月1日、高校に入学してからまだ上手く友達を作れなかった僕は1人で学校から帰宅していた。部活は楽が出来そうと言う理由で入った文芸部。最初の頃は頑張って雰囲気に慣れようとしたけどダメだった。
部活でも5月病ってあるのか、段々やる気がなくなってフェードアウト。最初から文学に興味なんてなかったのが、こうなってしまった原因なんだと思う。
最寄りの駅からは徒歩で10分も歩けば家に辿り着く。見慣れた景色を流し見している時、僕の目の前に傷ついた小動物が突然現れた。見た目は子猫によく似ているものの、何かがおかしい。
何がおかしいのかと言うと、そいつは僕の顔を見た途端に足を引きずりながらすり寄ってきたからだ。
「なお~ん」
「え、嘘……」
この特殊な状況に僕は動揺してフリーズしてしまう。どうしてそこまで動揺したのかと言うと、僕は今まで猫に好かれた事がないからだ。野良猫から知人の猫、更には猫カフェですら猫は僕に寄り付かない。
なので、猫側からすり寄ってくる事自体が有り得ない話だった。
「うわ……」
その子猫の体を見た僕は思わずその傷だらけの姿に若干引いてしまう。両手両足、しっぽ、背中と、どこでこんな激しい喧嘩をしたのかと思うくらいに、って言うか、よくこれで生きているなと思わずにいられないくらいの傷を負っている。
まるで鋭利な刃物で切り裂かれたようなその傷は、子猫の小さな体のあちこちに入っており、とても痛々しい。
「おいで、病院に行こう」
僕がそう言って手を差し出すと、子猫は素直に僕の腕の中に収まってくれた。こんなに猫が素直に言う事を聞いてくれたのは初めてだ。傷だらけでなければ、力強くぎゅうっと抱きしめていたと思う。
子猫を抱いた僕はそのまま動物病院に向かって歩き出した。この傷を放置なんてとても出来ない。
幸い、動物病院の場所は僕の記憶の中にあった。後はその記憶の通りの道順に歩くだけだ。優しく抱いて歩いていると、子猫が急に僕の腕をペロペロとその小さくて可愛い舌で舐め始める。僕はこの可愛い不意打ち攻撃に、くすぐったくて温かい気持ちになっていった。
子猫は毛づくろいをするように僕の腕を熱心に舐め続ける。猫に舐められるのも無茶苦茶久しぶりだった僕は、舐めさせるままにして傷の様子をじっくりと観察した。
と、ここで不思議な事が起こっている事に気が付いた。子猫が僕の腕を舐める度にその体の傷が治っていったのだ。これは普通の猫では有り得ない事。
この不思議現象を興味深く観察している内に、動物病院が見えるところにまで辿り着く。その頃には、あれほど深かった体中の傷がすっかり完治していた。
傷が治ったなら病院で診て貰う必要はもうないのだけれど、一応他にも病気とかがあるかも知れないので、僕は病院に行く足を止めなかった。
すると、病院の気配に気付いたのか、今までずっと従順だった子猫がいきなり腕の中から飛び出してそのまま逃げ出してしまう。
「えっ? ちょ、まっ!」
僕は逃げ出した子猫を追いかける。ここまで来たらどうやっても病院で一度体のチェックをさせたかったんだ。元気になった子猫はすばしっこくて、僕の追及をあっさりとかわしていく。
夢中になって追いかけていたので、すっかり道に迷ってしまった。
「あれ? ここは……?」
地元とは言え、通学で通わない道は案外覚えが悪いもので、僕は勘を頼りに知っている道を探す。何度目かの角を曲がったところで生き物の気配を感じた僕は、その直感を信じて吸い込まれるように確認に向かった。
脅かさないように慎重に抜き足差し足忍び足で気配に近付いていくと、その先で出迎えてくれたものは予想していた小さな猫ではなく――。
そこに現れたのは、今までに一度も見た事もない猛獣のような謎の生き物だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます