無双@女の子 ~美少女な俺がクラス全員を虜にします~
にょーん
第1話 お前ら全員攻略してやる
Side: F in M
夏の足音が聞こえはじめた五月下旬・・・・・・と言いたいところだけど、地球温暖化が夏の背中を押しているせいで汗ばむどころではなくなってしまったかつての初夏。わたしはある日の昼休み校舎裏にやってきていた。おでこに張り付いた前髪が少しうっとうしい。
「水無月」
目的地に着くと同時にわたしの名前が呼ばれる。
「あっ! ごめんね! 待たせちゃって!」
そちらに振り向きく。そこにいたのは霧島くんだ。
「いや、俺も今来たとこだから。それより急に呼び出してごめんな」
「ううん、全然! 気にしないで!」
わたしは玉の汗を光らせながらそう言って笑う。
霧島くんは一言で表せば、イケメン男子高校生。もう少し言葉を尽くすと、優しい性格に整った容姿、それと漂う落ち着いた雰囲気。決して口数の多い方ではないけれど友人も多く、クラスの中心人物である。その上部長を務めるサッカー部では花形のフォワード。そんなスペックを持っている霧島くんだからかなりモテる。わたし調べによれば、霧島くんに告白した女の子は五人いるとか。
「そ、そうか・・・・・・」
「それで霧島くん、どうしたの? 何か用事?」
「あ、あーうん・・・・・・用事な・・・・・・」
「うん?」
「・・・・・・あー・・・・・・うん、用事があるんだよ、水無月に」
「・・・・・・?」
なにやら霧島くんの様子がおかしい。わたしと目が合ったと思ったらすぐにそらしたり、口を開いたと思ったらまた閉じたり。そんないつもと違う霧島くんにわたしは首を傾げる。
「・・・・・・こほん」
明後日の方向を向いて頬を掻いていた霧島くんが小さく咳払いをして、わたしの方に顔を向けた。ばっちり視線がぶつかる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そのまま霧島くんが口を開くのを静かに待っていると、霧島くんの頬が淡く染まっていることに気がついた。
ああ、そうだった。
そんな霧島くんを見て思い出したことがある。霧島くんはずっと一人の女の子に想いを寄せているために告白してきた女の子全員を振ってきたのだったか。
「俺と付き合ってください」
イケメン男子高校生、霧島くんはわたしのことが好きなのである。
*
その翌日。わたしはぼんやりと窓の外を眺めていた。
二〇××年、人類のたゆまぬ努力によりVR技術はフルダイブをも可能にした。フルダイブというのは簡単に説明すると、バーチャル空間内の自らのアバターの身体を自身のリアルの身体と同じように動かせる技術の事。視覚はもちろんのこと、触覚嗅覚味覚聴覚、五感すべてがキャラクターと同期する。それでいてリアルの自分の身体は横たわったまま。そんなハイパーテクノロジーがフルダイブ技術と呼ばれているものの概要だ。
わたしは今、そのVR技術を利用した『らぶまっくす』という恋愛シュミレーションゲームをプレイしている。
そんなふうに人類の叡智のたまものである現状に感動しているとチャイムが聞こえた。お昼休みである。
「・・・・・・」
わたしは教科書をしまいながら、ざわつく教室を背景に次の攻略対象を探す。すると数人の友人に肩を叩かれながら教室を出て行く霧島くんが視界の端にちらりと映った。わたしが言えることではないが、ここ最近はわたしの近くでお弁当を食べていただけにちょぴっとだけさびしい。きっと食堂に行くのだろう。
すこし感傷的な気分になりながらわたしはクラスの男の子を順に眺めていく。男の子に限らずクラスの皆は、友人と笑い合いながらお弁当を広げていた。もちろんわたしにも友達はいるから、わたしもわいわいとおしゃべりしながら昼食に移る。こんなふうにクラスメイトを見ていると、全員がNPC、つまりノンプレイヤーキャラクターなのだと思うと不思議な感じがする。だって彼ら彼女らはみんなAIなのだ。哲学的ゾンビと何も変わらない。科学技術も進歩したものである。
楽しいおしゃべりをしているとあっという間においしいお弁当は空っぽになってしまった。バーチャルお母さんに感謝である。
ぱちりと手を合わせてわたしが合唱をすると同時に、隣の席の男の子が本をもって立ち上がり教室の出口に向かって歩き始めた。
別に彼を次の攻略対象に定めたわけではないのだが、わたしの目標はクラスの男の子全員から告白されること。なので距離を縮めておくのもいいだろう。そういうわけでわたしは友人達に声をかけてから彼を追いかけることにした。
「すーずおーかくんっ」
わたしは元気に彼の左腕にひっつく。これで涼岡くんのわたしへの好感度はかなり上がったはずだ。男なんてちょうちょろい。
「ああ、水無月。何か用事か?(メガネクイッ)」
「えぇ!?」
おかしい! 絶対におかしい! いくらアバターにロリ体型の女の子を選んだとはいえ、わたしはかわいい女の子なのだ! どうして柔らかい身体を押しつけられて平然としていられるのか! こいつは頭がバグっている!
「水無月、用事があるなら聞くから一旦離れてくれ。暑いんだが」
わたしが怒っているとこのキチガイが頭のおかしいことを言いだした!
「えぇ!?」
おかしい! やっぱりおかしい! こいつ絶対に男子高校生じゃない! 男子高校生はみんな煩悩まみれのはず! 故障か! AIの故障か! そうじゃないとわたしは自信をなくしてしまうんだが!
「水無月、真剣に暑いんだが」
「あっ! ごめんなさい!」
迷惑そうな(は? なめとんのか、ワレ?)視線に、わたしは急いで涼岡くんから距離を取る。確かに涼岡くんと接触していた部分は熱を帯びていて他よりも汗ばんでいるため不快ではあるが、それでも嫌がるなんてマジで頭がバグってるとしか思えない!
・・・・・・決めた。決めたわ。次はこの涼岡くんを骨抜きにしてやる。絶対に。
「で、何の用事だ?(メガネクイッ)」
へいぜんとしているぞこのメガネ! 赤らんでいる頬も単に熱いだけなのだろうと勘違いでも何でもなく信じてしまえる! それほどの態度!
わたしは内心ゴリゴリに怒りながら、冷静に次の一手を打つ。
「もしかして涼岡くんも今から図書室に行くの?」
クラスの男の子全員を攻略するにあたって、その人のだいたいの性格は把握している。いま、涼岡くんは本を持っているし、あまり社交的ではないようだから他クラスの友人に返しに行く、という可能性は無視してもよさそうだったからそう予想した。
「ああ、そうだが」
「ほんと!? ぐーぜんだね! わたしも今から図書館に行くところだったんだ!」
ふふふ・・・・・・今日もわたしの頭脳はさえている。ほんとうはこれっぽちも図書室に用事はないのだが、不思議な偶然に喜ぶ女の子のようにきらきらととびきりの笑顔を咲かせる。
「そうか」
・・・・・・咲かせたのですがうろたえる様子がない。涼岡くんは去勢しているのではないだろうか。
「うん! それでね、こんな偶然なかなかないとおもうからよかったらでいいんだけど・・・・・・」
そこでちらりと涼岡くんの顔を下からうかがって、
「勉強教えてくれないかなー・・・・・・なんて・・・・・・どう、かな?」
ちんまりとした五指をもじもじとからませながら言う。
「そうだな・・・・・・いいぞ」
「あははーそうだよね・・・・・・でもでもあしたの小テストが・・・・・・っていいの!?」
思わず素で聞き返してしまった。
予想外。ほんのすこしの思案を挟んであっさりと承諾してくれた。てっきりしぶられるものかと・・・・・・だがこれはチャンスである。今日中に虜にしてやろう。
「ああ、だが・・・・・・」
わたしは一瞬のうちに涼岡くんをおとすためのプランを頭の中でくみ上げていく。
その刹那。
ばんっ。
「ひゃうっ!?」
涼岡くんに壁ドンされた!? なんか可愛い声を出してしまったんだが! ぜんぜん意味が分からない。
一体どうなっちゃうの、わたし~~~~~~~!?
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