第9話 カイルとの結婚式
2週間後、
今日はカイルとの結婚式の日。
私は準備にはほとんどなにも関わってない。
そもそもわからないことも多すぎるし、日常生活のための勉強とカイルによるエステをされてた。
そして初めての外出。
聖紋の術式もイマイチ安定しないし、そもそも外に出る用事もなかったからずっと家の中で勉強してたから。
しかも会場は神殿、つまりエルの職場なわけ!
ウキウキが止まらない。
ドレスとかは、神殿の控え室にもう2人が運んでくれてるそうで、普段着のピンクのワンピースに着替えてレッツゴー!
どうやっていくのかなーとか思ってたら、ファンタジー世界にふさわしい、綺麗な紋章の入った馬車を用意してくれてた。
カイルのエスコートで載せてもらって、馬車の中から街並みを楽しむ。
石畳に西洋っぽいレンガ造りの家、町並みは本当にオシャレ。
「そういえばカイル、この馬車についてた模様なんなの?」
「あーこれか。師団の馬車を借りたから、王宮魔術師団の紋章だな」
へぇー カッコイイ!
因みにツィリムとエルは先に行って準備してくれてる。特にエルは自分の職場だけあってやることが多いみたい。
到着した所は神殿って呼んでたけど、教会みたいな感じで、ステンドグラスがとっても綺麗な天井の高い建物。塔みたいな作りになってて天井が吹き抜けですごく高い。
綺麗で見とれていたらそんな暇はないと腕を引かれる。確かに結婚式の裏側ってすごい忙しそうだからね。
控え室で着替えるんだけどさすがにドレスはひとりじゃ着替えられない。
しかも下着もドレス用で違うやつなんだよね……
だからつまり……
「カイル一旦外へ出てて!」
旦那さんに着替えを見られるのが嫌って普通じゃないみたいなんだけど、私としてはちょっご遠慮願いたい。
そこまでこの人達と打ち解けれてる訳じゃないし……
ちょっと納得しない顔だけど、カイルは一応外へ出てくれた。
白いヒラヒラのレースのついたチューブトップタイプのブラとショーツ。
それだけ身につけてから外のカイルに声をかける。
カイルはドアを開けた瞬間固まった。
「ちょっとカイル、ドア閉めて!あんま見ないで!」
若干涙目になってたかもしれないけど、本当に、ドア開けたまま固まらないで欲しい。
誰か通るかもしれないんだから!
私の叫び声で我に返ったカイル。
「いや、悪い、可愛くてな、見惚れてたよ」
そんな恥ずかしいセリフを素面で言うな。
絶対顔真っ赤になってるよぉ……
軽く笑うと腰に手を回して、そのままキスされた。
すごく深いキスでもう無理。
慣れてない私は本当に倒れそうなぐらいびっくりしちゃった。
目を回してる私を見てカイルはニヤニヤ笑うし……
そんなことをしてると軽くノックの音が響いて、ツィリムが入ってきた。
「着替え手伝うよ」
「ダメ、今日はカイルに甘える日だから」
2人ともちょっとびっくりしたみたいな顔してたけど……
「だってそうでしょ。カイルとの結婚式は今日だけなんだから。ツィリムはまた今度ね」
軽く言うとカイルに抱きしめられた。
「イズミル、ありがとう俺のために」
「だって、カイルは私の初めての旦那さんなんだから。大事にしなきゃ」
優しく頭を撫でてくれて、ドレスを着せてくれる。
今回の結婚式のドレスは真紅、つまりカイルの色。
背中が大きく開いてて、リボンで編み上げてあるデザイン。背中に大きなリボン結びがあって、裾にはたっぷりのドレープ。
ウエスト部分に同じ生地で作った薔薇があしらわれていて、引きずるくらい長い裾には金色で細かい刺繍が入っていて、キラキラと輝いている。
カイルは魔術師がよく着るという、黒の生地に金の縁と飾り、それに派手な刺繍の入ったローブ。
隣で黒を着てる人がいるんだから、私の赤いドレスはとてもよく映えると思う。
ドレスを着せてくれた後は、髪を綺麗に編み込みにしてくれて、赤いバラとピンクのバラ、黄色のガーベラみたいな大きな花のついたヘッドドレスをつけてくれた。
美容師さんみたいに綺麗にしてくれたものだからびっくりしちゃった。
「なんでこんなことできるの?すごく綺麗だけど」
「妻の身支度は夫の仕事だ。ドレスの準備も髪の準備も、貴族の男にとっては必須技能だな」
この世界で旦那さんになるって大変なんだなぁ……
そして揃いのネックレス、イヤリング、指輪を着けてもらう。
全て大粒ガーネットを使っていて、間に黒曜石があしらわれているもの。
カイルと私の色を使ったアクセサリーはとっても綺麗で一気にテンションが上がる。
メイクまで完璧にしてもらって、カイルの前でくるりと一周回ってみた。
「綺麗だよ。イズミルには赤のドレスは派手すぎるかと思ったけど、そんなことはなかったな。俺の色がとてもよく似合ってる」
誇らしげにそう褒めてくれるカイル。
得意になってクルクルその場で回って遊んでいるとエルが呼びに来てくれた。
「もうすぐ時間ですよ」
カイルがお姫様抱っこをしてくれて会場の扉の前へ。
「イズミル、愛してる。俺を第1夫に選んでくれてありがとう。
一生お前をそばで守りたい、 “救国の乙女” とか “龍の姫君” とか関係なく、イズミルのことを大切にしたい」
正統派王子様イケメンに間近で愛を囁かれて、めちゃくちゃドキドキしてしまう。
ただでさえ私好みの顔なんだから……
「ありがとう」
深紅の瞳に吸い込まれそうなくらい見とれていて、それだけ言うのがやっとだった。
多分私の顔は真っ赤で、そんな私を見てカイルはにっこり笑ってくれた。
係の神官さんが扉を開けてくれて、私を降ろしてカイルが1人で先に入っていく。
扉が開いた時に、わっ、と拍手の音が聞こえてきて一気に緊張してきた。
少し間を置いて、神官さんに促され歩き始める。
本来は父親に抱かれているものらしいけど、私にはこの世界父親はいないから。
すごく緊張してるけど、堂々と見えるように歩く。
壇上でカイルが待ってくれてるから、焦らずゆっくりと。
壇上へ上がるとカイルが抱き上げてくれた。
優しい笑顔に包まれて緊張が少しほぐれる。
出会って1ヶ月くらいだけど、この笑顔に安心できるくらい、私はカイルを信用してるんだ。
ちょっと年いった神官さんが出てきて、教卓みたいなやつの前に立つ。
この辺は下の世界の結婚式と似てるなぁ。
神官さんに促されてカイルが話し始める。
「俺、カイルセル ・ケインテットは、イズミ・オオモリに対し、夫として生涯を捧げ、愛し守り続けていくことを誓います」
真摯な瞳に射抜かれて心臓がドキドキする。
「イズミ・オオモリ、夫からの愛に答えますか?」
いかめしい神官さんからの問い。
「はい、もちろんです」
次の瞬間キスが降ってきた、啄むようなキスに応えてカイルの首に腕を絡める。
ひとしきりキスをした後、婚約の時より細かい模様の入った魔術紙を差し出された。
椅子に私を降ろしてもらい、サインする。
カイルも続けてサインすると紙が光り、ふわりと浮き上がった。
「ここにイズミ・オオモリとカイルセル・ケインテットの夫婦の誓いが立てられました」
新刊さんの宣言とともにカイルが私を抱き上げて振り向いた。
参列者の方を向くと割れんばかりの拍手を受けてとても嬉しくなった。
知らない人ばかりのこの世界だけど、私たちのことを祝福してくれる人がこんなにもいることを知って、頑張ってこの世界で生きていこうって思えた。
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