第4話 魔術のハナシ
翌朝
朝日に顔面を直撃されて目を覚ました。
あれ、ここどこ?見慣れた私の部屋じゃない。
ああそうだ、私は異世界転移してしまって、だから多分ここはカイルさんの部屋で……
えっ、ってことは、このベッド、カイルさんの?
私昨日の晩ツィリム君を待つって言いながら多分寝ちゃったんだ。
カイルさんに申し訳ないことをしちゃった。
ソファーで寝ようと思っていたのに…
疲れてたとはいえ寝落ちしちゃうなんて。
しかも今着てるのは昨日来てた普通の私服じゃなくて柔らかい生地のワンピースみたいなもの。
多分カイルさんかツィリム君が着替えさせてくれたんだろうけど…
恥ずかしすぎるっ!
うわー私あの時なんで寝ちゃったんだろう
慌てて起きていくと、カイルさんもツィリムくんももう起きていて、身支度までできていた。
「すみません、昨日は寝てしまって…
ベッドまで貸してもらってて本当にありがとうございました。」
「いやいや、気にしないでくれ。俺らの方こそ君が疲れているのに気づかずに、話に付き合わせしまって申し訳なかった。多分そのうち昨日の神官が来るだろうから、それまでに服を着替えておこうか?」
ツィリム君が黙って立ち上がる。
取りに行ってくれるのかなぁ?
どこにあるのか知りたいし、ついていこうとしたら、カイルさんに止められた。
というよりかは、抱き上げられた。
だんだんデフォルトになっているような、お姫様抱っこだ。
「あの、自分で歩けますからおろしてください。落ち着かないんです」
渋々、本当に渋々と言った様子で、カイルさんがおろしてくれた。
慌ててツィリムくんを追いかけると、さっき私が寝ていたベッドの隣に、クローゼットがあった。
「あまり時間がなかったからな、そんなに種類が揃えられていないんだが、気に入ったものを着てほしい」
どれも、ドレスのような足首までスカートのあるワンピースで可愛らしいデザインのものが3着吊るされていた。
その中でも私は白地にピンクのバラの刺繍が入ったワンピースがとっても可愛らしくて、おとぎ話のお姫様みたいだったからちょっと着てみたくなった。
「これがいいです、すっごく可愛い」
ハタチ越えた人が着るにはちょっと痛々しいデザインだけど…どれも似たようなもんだし、まあいいか。
ツィリム君がハンガーから外してくれている間に、カイルさんが私のワンピースに手をかける。
えっ、ちょっと待とう!?
もしかして、着替えさせるつもり?
そりゃ多分昨日は着替えさせられたんだろうけど、寝てて意識がなかったし、そういう時はまぁ仕方がないじゃん。
でも今は別に寝てるわけでもないし…
この状況で普通に着替えさせられるのは私の心臓が絶対に持たない!!
カイルさんの手を払いのけて素早く逃げると、とっても傷ついた顔をされた。
「イズミル、俺がそんな嫌いか?」
いやそんな傷ついた顔されましても…
「嫌いとかそういう話じゃなくて、無理なんですよ!」
お姫様抱っこも膝に座らされるのも仕方がないと思って諦めてるけど、着替えを手伝われるところまで許したつもりは全くない。
というか慣れられる気がしない。
「まぁ、どうしてもというなら諦めるが…そこの引き出しの中に下着も入ってるから好きに使ってくれ」
うぅ、昨日あったばかりの男の人に下着まで準備される恥ずかしさはヤバい…
まぁおとなしく離れていってくれただけよしとしよう。
ただ、この部屋は広いワンルームに色んな家具が入っているような作りになっているから、別に離れていてくれたところで壁はない。
外に追い出してしまおうかと一瞬思ったけど、さすがにそれは2人を傷つけ過ぎるような気がして…
仕方なく背を向けるだけで我慢して着替える。
すっごく可愛いワンピースだしね、大丈夫。
自分を懸命に誤魔化して着替え終わって振り返ると、カイルさんとツィリムくんも気を使って後ろを向いてくれていたみたいだ。
「ありがとうございます。着替え終わりました。」
振り返ったカイルさんはとろけるような甘い笑顔を見せてくれた。
ツィリムくんでさえほんの少し頬を赤くして微笑んでいる。
「イズミル、とっても可愛いぞ。髪も綺麗にしようか。こっちに座ってくれ」
ダイニングテーブルの椅子を示され、珍しく膝の上じゃなく、自分で座る。
その時コンコンとノックの音が響いた。
「チッ、、」
カイルさんが、軽く舌打ちをする。
「気やがったか」
ブラシを取りに行っていたツィリムくんに、
「悪いが、後を頼む。来た」
そう言い置いて出ていった。
昨日の神官さんだよね、多分。
でもまぁ私は話し合いに参加させてもらえないっぽいし、聞いてもたぶんわからないだろうし…
おとなしくしてようかな。
ツィリム君はいつもの無表情ながら若干楽しそうなオーラをまとって、私の後ろに立った。
ブラシで丁寧に髪をとかしてくれて、香りのついた油のようなものを髪に塗ってくれる。
椿油みたいなやつかな?
だんだんツィリムくんと二人でいる時の沈黙が気まずく無くなってきた。
最初2人でおいとかれた時は沈黙がつらかったけど、ちょっとづつ彼と2人の沈黙に慣れてきたかな。
ちなみに私の髪はそんなに長くなくて、肩にかかるくらいの長さ。
とてもとても丁寧に髪をとかしてくれて軽くハーフアップにまとめてくれた。
道具を片付けているうちにツィリムくんにちょっと気になったことを聞いてみた。
「この世界、魔法があるって言ってたよね、魔法ってどうやって使ってるの?」
片付けに行こうとしていたブラシと香油の瓶を机の上に置いたまま、私の向かいの椅子に座った。
「俺、喋るのが苦手だから、うまく説明できるかどうかは分からないけど…
魔術を使うには、自分の体の中にある魔素を自分の体の回路を使って魔術に変換してる。
魔素の量も、回路の性能も生まれつきのものだから、魔術が使えるかとか、どれくらい使えるかっていうのは生まれつき決まってる。
俺は、回路の機能がすごく良くて…あんまり魔素は多くないけど、魔素を回路に入れるときの効率を良くすることでたくさん魔術を打てるんだ。
でも、回路の性能がいい人は他人が放出する魔素の影響を受けやすい。
人間も動物も動いてるとほんの少しずつだけど魔素をだしているから、あんまり長いこと他の人の前にいるとその影響を受けて、しんどくなってしまう。
俺の場合は魔素に対する反応性が高すぎて、親ですら近づいてくるのがつらかった」
ツィリム君を無口っ子だと思ってたけど、案外よく喋るなぁ。
人間自分の好きなことには饒舌になるってことかな。
「あれ?人間が苦手ってことは私もよくないんじゃないの?大丈夫?」
「イズミは大丈夫。なんでかは分からないけど。多分イズミの魔素は龍脈っていうこの大地の魔素をそのまんま放出してるもんだからだと思う」
へー、私にはなんにもわからないんだけどね
「でも、私には回路ってないのかなぁ?魔術使えたら楽しいのに」
「イズミの体にはなぜかわからないけど、魔素しかない。魔素を魔術に変えるための回路が存在してないんだ」
そりゃあまあそうかもしれない。
だって私は魔術なんて使えない世界から来たんだから
「ありがとう。
ほんのちょっとだけど、魔術のことがわかったよ。
そういえば昨日カイルさんが結婚した人達は愛称で呼び合うもんだって言ってたけど、ツィリム君は?」
「俺はこの国の出身じゃない。西の国のカヤッタエラの出身だ。
俺の国にはそういう風習はないから別にいいけど、イズミは呼んでほしい?」
「私の国では愛称で呼ぶのはちょっと仲いい友達とかだったら普通にすることだったから、そんなにこだわりはないかな」
満足そうに微笑んで、ブラシを片付けに行った。
戻ってきたツィリム君は私をお姫様抱っこで抱き上げてソファーに座り直した。
もちろん私はツィリムくんの膝の上。
高校生か、下手したら中学生ぐらいの見た目で身長も私とそんなに変わらないのに、落とされそうって思わないぐらい安定感がある。
こんなに中性的な顔をしてて、天使みたいなのにやっぱり男の子なんだなぁ。
しばらく膝に抱かれたままま、沈黙の時間を過ごしてたんだけど…
「イズミ、俺に魔素ちょうだい」
「魔素あげるってどうやるの?」
「魔素譲渡(トランスファー)の魔術があるんだけど、使ってもいい?」
軽く頷くと、私の首筋に手を当てて何事か呟いた。
膝に抱かれてるこの位置ですら何言ってるかわからないぐらい口の中でもごもご言うのが、どうもこの世界の呪文みたい
首筋がちょっと熱くなって程度で、それ以外の変化はほとんどなかった
「イズミ、しんどくない?大丈夫?」
「うん、全然何もない」
指を離すと、熱かったのもなくなって。
離れた指の代わりにキスを一つ落とされた。
ツィリム君は軽く笑って、また元のように何も言わなくなった。
眠ってるのかなーって思うぐらいに静かで。
でも、たぶんこれがツィリム君の普通の状態。
まあ好きなように過ごしてくれればいいさ。私はちょっと暇なんだけどね。
膝に乗せられてる状態から、横抱きみたいな感じでツィリム君の顔が見えるように座り直して。
天使の顔を眺めながらボーッとしていたら、話し合いが終わったみたいで、カイルさんが帰ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます