3.2日目

気を失ってすぐに目が覚める。

まるで瞬きをしたように一瞬にだった。


「どこだ、ここ」

どこかの商店街だろうか。

まだ新しくここに来たような人はいない。

しばらく歩いていると大通りに面している通りで人集りが出来ているのが見える。

近付いて見ると、一台の白い乗用車がガードレールを無残に破壊し歩道と自転車道のある広い道に横転した状態で沈黙していた。

車のボンネットは赤く染まり床には血と砂が混じった赤黒い血痕が大量に見える。

事故現場のすぐ横に原型のない自転車だったものには子供をのせるシートがついていた。


救急隊員が突き飛ばされた大人と子供を倒れこむその場で必死に手当てしている。

「急げ!止血が先だ!」

「心臓マッサージ!輸血と…」



子供を手当てする隊員の横、一人の男の子が体育座りをしている。

あの子は助かったのだろうか。

誰にも相手にされていないのは緊急を要する手当ての最中だと思っていた。



男の子に近付こうと右足を地面から離した瞬間、場所が変わった。


「公園?」

見回してみるとどこにでもありそうな住宅街の中にある公園だった。

滑り台の横のベンチにさっきの男の子が顔を拭いながら立っている。


「やっぱり…あの子か」

僕は深呼吸をして男の子に近付く。

「やあ!僕と一緒に遊ばない?」

悲惨な事故を経験したんだ、どう話しかければ正解か分からなかった。

それでも、少しでも救えるだろうと明るく接することにした。

「僕、死んじゃったの?」

男の子はきっと自分の遺体を見たのだろう。

彼の質問に僕は答えられなかった。



「君、名前は?」

「ゆう」

「ゆう君はね…死んじゃったんだ」


僕は理想ではなく現実を突きつけた。

事故現場でもここでも泣き叫ばずに涙を堪え続ける彼を見て強い子だと感じたからだ。

それに僕と三日間一緒にいられるわけでもないしルールを教えて、せめて三日目に家族に…


「ママも死んじゃったの?」

「分からない、でもね また会えるから安心して」

「本当?」

「うん、その代わりゆう君にしてもらいたいことがあるんだけどできるかな?」

彼は少し考え口を開く。

「できる」

「よし!じゃあ…!?」


「ゆう!」

「ママ!」


二人はしばらく抱き合い母親がこちらに気づく。


「息子がお世話になりました」

「いえいえ」

「ひとつ聞いていいですか?」

「はい」

「ここって、あの世…なんですか?」

「そうとも言えるしそうでないとも言えるみたいです、僕も昨日きたばかりで」

「そうなんですか…」

空に茜雲が目立ち始める。

そろそろ時間か、急がないと。


「あの、ここのルールがあるみたいで」

「教えてください」

「じゃあ、ゆう君も聞いててね」

「うん!」


昨日教わった事を全て話し終えた頃、沈む太陽の最後の抵抗か金色の空は光を強める。

僕の身体はうっすらと透け初めていた。

「そろそろ、時間みたいです」


「お名前聞いていい?」

「ええ、冬羽 璃音です」

「綺麗な名前ね、私は古美川 実希 この子は悠馬」


身体のほとんどが消えかかったとき悠馬が口を開く。


「お兄ちゃんありがとう!僕、パパに会えるように頑張るからお兄ちゃんも頑張ってね!」

「頑張るよ!」

「璃音くん、教えてくれたのがあなたでよかった ありがとう 三日目、きっと会えるから大切にね」

「はい!」


身体が完全に消えたと同時に意識も消えた。





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