死神に救われた子供たち
志貴野 凛音
一人目 死んでいたと思っていたのに…
むっとするような熱気がこもる階段、どこかからは蝉の鳴き声も聞こえる。
トン、トン
同じようなテンポで階段を昇る音が響く。しかしその音は誰の耳にも届くことはなく、音の主は気にす様子もなくただ歩き続ける。まるで全て台本に書かれているように、堂々としたように背筋を伸ばし、ツンとした鼻を前に向け、ひたすら歩くことに集中する。
真っ白なドアを力強く押すとギイイイと軋むような音をたてて開く。突然眩しくなった為か、少年は目をつむる。明るさに目が慣れてくると周りのビルに目がいく。都会のビルはとても高く、しかし少年のいるビルも負けず劣らず高かった。30階以上もあるs会社、そこの屋上からの眺めは最高だということを少年は知っていた。否、見たことがある。少年は躊躇うこともなく屋上をまっすぐと歩いていき、柵に手をかけた。心臓が飛び出るのじゃないかと思うほど、下にいる人が小さく見えた。
「ははっ、流石だ…ここから落ちれば、助かることはねぇだろ…」
誰かにいったのか、自分自身に言い聞かせたのか、少年のその言葉は青い青い空へと吸い込まれていった。
ふと、なにかを感じ振り返る。先程まで誰もいなかったそこには銀髪を靡かせた男性がいた。20代後半から30代前半といったところだろう。真っ直ぐに切られた前髪と若草色の目がとても似合う、一言で言うと爽やかな雰囲気だった。
「おじさん、勤務中でしょ?それにこの屋上は立ち入り禁止なんだよ。知らなかった?」
男性は自分がいたことに気付かれたとは思ってもいなかったのか一瞬ビクッとしたが、「それは君もだろう」
と笑って返した。蝉が鳴く。まるで自分がここにいると誰かに知ってほしいかのように。
「おじさんは何しに来たの?もしかして…」
「自殺?」
ニコッと笑いながら話す少年に、気味悪く思ったか、はたまた興味が湧いたのか、男性は静かに少年を見る。
「それは君が、だろう?」
不意を突かれ少年は、ばっと後ずさる。喉にいがでも詰まったような顔をし、苦々しげに少年は柵の上に立ち上がる。
「知ってるんだ、俺を殺しに来たの?大丈夫、もう死ぬから。」
隙をつくらず少年は足元の柵を蹴る。
ふわっ
一瞬少年は空を舞う。楽しそうに、羽が生えたかのように両手を広げ、ぼさぼさの黒髪を靡かせて…鳥と違うのは、思うように飛べないということ。そして、かなりのスピードで地面に叩きつけられるということ…
「お前が死ぬのはまだ早い」
意識が薄れるなか、少年の耳もとには低く凛とした男性の声が聞こえた。それが誰の声か、なにを意味するのか確かめることもないまま少年は下へ下へと落ちていった…
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