消滅

 救急車を呼ぶと、壮太と茉里は同乗するように言われて、翠を運ぶ救急隊員と一緒に救急車に乗って病院まで行った。

 病気に着いて、いったん救急隊員たちと別れると、なぜか救急救命センターの待合室ではなく、もっと奥にある暗い廊下のベンチで待たされた。

 茉里も壮太も不思議に思ったが、何も言わずに時間を過ごした。

 しかし、それに耐えきれなくなったのか、一時間ほどして、荘太が沈黙を破った。

「母さんの手、氷みたいに冷たかった」

 茉里は、壮太と同じことを考えていた。しかし、あえて口に出さないでいた。壮太はじっと自分の膝を見つめている。その目からは涙が溢れていた。

 その後も沈黙は続き、それが破られたのは、一人の医者が二人の前に現れた時だった。

 医者は、二人にとって衝撃的なことを喋って、いったん去った。

 二人は、その内容に言葉を失った。

「翠さんの死亡推定時刻が、三日前?」

 茉里の声が震えた。

「そんなはずあるか! だって、母さんはついさっきまで生きていたじゃないか!」

 壮太は、そう叫んで、顔を覆った。二人とも、悲しみと混乱で頭がどうにかなりそうだった。

 すると、茉里はハッとして、ポケットの中に入れていた石を思い出した。そしてそれを握った。

 すると、茉里のとなりにいた壮太は、消えた。

 まるで最初からそこにいなかったかのように、忽然と、消えた。

 茉里は、びっくりして辺りを見渡した。すると、先ほどの医者がこちらに歩いてきた。医者は、茉里を一瞥すると、何も言わずに去っていった。

「どうなっているの? 壮太さんは?」

 茉里は、訳の分からないまま、立ちすくんだ。どうしたらいいか分からない。

 すると、後ろから茉里の肩を叩く手があった。こわごと見ると、そこには、翠がいた。

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