サービス終了
綿麻きぬ
ゲーム
「う、うそだ、なんでだよ、どうしてだよ、これを信じろっていうのか?」
僕はパソコンの画面を見ている。時計の針は12時を指していた。外は暗い、そんな中部屋の明かりが漏れている。
画面はゲームのお知らせのページが開かれている。僕が4年前から始めたゲームだ。毎日毎日、ログインを欠かさずにしてきた。所謂RPGものではないが、まったり自分のペースでできるゲームだ。
そこには「サービス終了のお知らせ」と書かれていた。
気持ちの整理がつかないまま、お知らせを読み始めた。
信じられるか、そんなこと。信じてたまるか。
サービス終了日は3か月後、7月24日13時。理由は僕たち、プレイヤーが満足できるサービスの提供が難しいと判断したから。
確かにさ、いろいろ不具合があったから言ったけど、それはこのゲームももっとより良いものにしたかったからでさ。
それについこの前、6周年になったばっかりだろ? もっとこれからも続くと思っていたよ。うれしいかったよ、6年も続いて。
僕は一人部屋で涙を流しながら、ログインした。
そこには全体チャットもギルドチャットもすごい勢いでログが流れていた。
「おい、どうしてサービス終了なんだよ」
「今までありがとう」
「このゲームもオワコンだったんだな」
「これからどうする?」
「とりあえず、サービス終了までは見守る」
「俺は信じないぞ」
いろんな感情が怒涛の勢いで流れている。
そんな中、僕はただただログを眺めているだけだった。
今、思い出すといろんなことがこのゲームであった。
始めたてのころ何も分からなくて、いろんな人に手を貸してもらった。それが途中から自分が手を差し伸べる立場にもなった。
ネットのいろはが分からなかったあの頃、自分の個人情報を言おうとして止められたこと。
ギルドのみんなで情報を集めまわったこと。
夜遅くまで、推しについて語ったこと。
ギルドランキング2位から1位になったこと。
仲の良いギルメンがギルドを抜けたこと。
ギルドリーダーになったこと。そして忙しくてギルドリーダーを降りたこと。
徹夜してゲームしたこと。
推しキャラのガチャに課金したこと。人生で初の課金だった。ちなみに推しキャラは出なかった。
いろんなことがあった。僕の青春の全てで、一番楽しかった時間たちだ。
そんな時間がもう無くなってしまう。僕にはその衝撃が大きかった。心にぽっかり穴が
開いてしまった。
僕はそっと画面を閉じた。見ていられなくなった。
そしてそのまま、布団に入って、電気を消した。
翌朝、いつも通りに会社に行って、でもパフォーマンスが悪くて、上司に怒られて、同僚に心配されて。
「なんかあったか?」
同僚は僕にそっと聞いた。
「好きなゲームがサービス終了を告知した」
「そうか」
同僚はそっと頷き、言った。
「じゃあさ、これからはサービス終了までさ、全力でプレイしなよ。後悔しないようにさ」
「あぁ」
僕はこれに力なく返事をした。
そして家に帰り、いつもと同じようにログインした。
いつもと同じはずの夜なのに、空はいつもより綺麗だった。これから足りなくなるのに。終わりの始まりなのに。
昨日に比べて、ログは流れていなかった。ただそこに一つのコメントが打たれた。
「こんなゲーム、クソだった」
僕はいつものこんなコメには反応しない、でもこれは許せなかった。いつの間にか僕はキーボードを叩いていた。
「このゲームは素晴らしい仲間がいて、キャラがいて、頑張っている運営がいて、みんな楽しくプレイしてるんだ。そんな中、そんなこと言うのは非常識だ」
「あっそ、こういうやつがいるからこのゲームはクソだったんだよ。止めるわ」
「止めたいなら、やめればいい。お前みたいなやつはこのゲームにはいらない」
「はいはい、じゃあな」
ギルメンに止めとけと言われて、気が付いた。僕はこれからの残り時間を全力で過ごすって決めてたのに。
その出来事を引きずってその日のプレイは楽しくなかった。
そして、明日、明後日と気持ちを切り替えて全力でプレイし、1か月、2か月と時間が経ち、お知らせに新たな情報が載った。
「新ゲームのお知らせ」
それは僕のやっていたゲームが新たなゲームのため切り捨てられたことを意味する。
僕は混乱した。まさか、切り捨てられたなんて。
それでも僕はゲームを続けた。全力で仲間と共に。
そしてサービス終了日、会社を休んで、パソコンの前に座る。
一刻一刻と終了まで時間は迫っている。
ギルメンに「ありがとう、またどこかで会えたらね」なんてことを話ながら。
僕の頬には涙が伝った。
今までありがとう。いろんな人に出会わせてくれて。そしてこんな素晴らしいキャラに出会わせてくれて。もう、僕が育てた、一緒に過ごしたキャラ達には会えないけど。
本当に本当に楽しい時間が過ごせた。泣いて笑って、敵に勝てないって叫んだ日もあったよ。僕が辛かったことがあった日も君たちは癒してくれた。いろんなことを教えたく
れた。
大好きだよ、一生忘れないから。
そして13時、サービスは終了した。
画面にはキャラ達全員が表示され、「今までありがとう」の文字がある。
僕はもしかしたら、この世界に入れるかもしれないなんて思っていたがそんなこともな
く、サービスは終了した。
僕の頭の中には走馬灯のように今までの出来事が流れてきた。そして、時間が戻っていく感覚がある。
そして、目の前にはサービス終了の告知の文字がある。
「う、うそだ、なんでだよ、どうしてだよ、これを信じろっていうのか?」
サービス終了 綿麻きぬ @wataasa_kinu
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