お冬さん

松剣楼(マッケンロー)

第1話 冬は大嫌い

 俺、江崎浩介えざきこうすけは冬が大嫌いだ。


 その理由はいたってシンプルで、寒いのが嫌だから。


 毎年この季節になると、凍えそうなくらい冷たい風が北西から吹き荒れ、薄く積もる雪のせいで路面が凍る。


 その凍った路面はアイスバーンと呼ばれ、滑ったり転んだりするわけだが、もうその字面が、受験生たちにとって非常に縁起が悪い。


 わざわざ寒いのを我慢して外出するのも嫌だし、何なら、一日中布団の中で生活したいくらいだ。


 いっその事、冬なんて無くしてしまえばいいんじゃないだろうか?


 と、こんな話を家族や友人にすると、決まって「お前は変な奴だな」と笑われてきた。


 友人にいたっては「だから女にモテないんだよ」とまで言われたこともある。


 なぜ冬の話題から俺の女性関係にまで話が及ぶのか理解できなかったが、確かにこの世に生を受けてから十八年もの間、俺には女っ気がこれっぽっちもなかった。


 友人はおそらく、俺のこういう面倒な性格のせいで女が寄り付かないと指摘しているんだろう。


 そのへんは正直、自分でも自覚はしている。頭では理解しているんだよ、冬を無くすのが不可能な事くらいは。


 そんなに冬が嫌ならオーストラリアにでも行けって言い分もよく分かる。


 でも、季節なんて春夏秋の三つだけあれば充分なんじゃね? という考えを抱くのは、寒いのが嫌いな俺にとっては至極しごく普通なことであると思うし、そのうち技術が発展すれば何とかなりそうな気がしないでもないという、心のどこかで淡い期待を寄せているのもまた事実なのである。


 その技術が一体何であって、季節にどう作用するのかはさっぱり想像もつかないのだけれど。


 想像もつかないし、結局俺一人では何もできないから、毎年悶々とした気持ちで厚着をして毛布と布団をかぶり、ひたすら寒さをしのぐしかないのであった。

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