余談

余談ですが、令丈ヒロ子さんの言う「百合と異界は児童文学の伝統」の百合と児童文学の伝統とは吉屋信子以後の少女小説と、それを掲載していた少女雑誌が戦後、漫画に転向した事により少女雑誌の読者投稿欄や少女小説によって形成された少女表象や物語の流れや人物像を継承したことについてであり、児童文学においてはそのまま小説と言う形でこれを受け継いだことについてであります。


例えばセーラームーンの美奈子とカタリナお姉さまや、お嬢様学校に通うレイちゃんが学校ではお姉さまと慕われていること、そして、はるかとみちるの様な関係は昔の女学生の隠し言葉ではアルファオメガと言います。アルファオメガとはa to z(始めから最後まで)の事で、転じて頭の天辺からつま先まで濃厚なエス(の関係)と言う意味になります。この様な劇中の表象の原点は戦前の少女小説にあります。他にもワガママお嬢様や竜崎麗香や姫川亜弓の様なライバル的存在のお嬢様も原型はこの頃の少女小説に既に登場します。少女漫画に出てくる取り巻きを連れたお嬢様も、プリキュアに出てくる高飛車な当て馬お嬢様も原型からの派生です。この様な派生は現在では少女の文脈が通用しないドメインにさえたくさん登場します。これをプロトタイプ効果と言います。また、お姉さまやお嬢様など、一部の属性だけを見て「これは(百合の)古典的なあるあるだな」と全体である少女小説、エス、現在における百合を想像できることをゲシュタルト(構造)と言います。


エスというのはマリア様がみてるのスールのような関係で、他には神無月の巫女の姫子と千歌音ちゃんの様なものです。ただし、エスはプラトニックを実践しますが、実際になし得るとは限りませんし、小説においても特にエスや少女をモチーフにした大衆小説ではプラトニックとは限りません。あの辺は少女小説を止めた途端にプラトニックではなくなります。(ののはな通信etc)因みに書簡体の少女小説というのは昔、三谷晴美(瀬戸内寂聴)さんが書いていましたし、エスにはエスレターというものがあって、少女にとって手紙でのやり取りというのは重要な文化です。女の人は中学生の頃に紙切れを矢鱈目鱈回し読みしたと思います。また、女性同士でのみ使われる封緘の蕾はこのエスレターが由来で、エスが「まだ開いていない」と言う意味で蕾を封緘に使ったためです。つまり、封緘に蕾を使うと(エスのような)意味深になってしまいますが、印章屋さんが教えてくれると思います。そもそも、意味深も意味深長の略で昔の学生言葉です。本来は意味深と言う場合には色事などについて意味深長だなと言うニュアンスで使います。女学生が使った場合は文脈によってはエスについて言っています。異性の存在を示唆している場合もありますが、そんな不良は当時としては珍しいです。


また、日本のエスに近いものとして海外にはシスターフッドと呼ばれるものがあります。これ自体は姉妹の様に仲が良いと言う意味ですが、海外児童文学のモチーフとなる事もあります。赤毛のアンや思い出のマーニーのように。シスターフッドは昔、日本では腹心の友や心の友と呼ばれていました。日本の少女小説と同じものは海外では児童文学にあたります。日本の女学生は旧制の中等教育ですが、シスターフッドは(アンが後に大学に通うように)女子大生だったりする所に国の制度の違いが現れています。最終的に結婚する所は変わりませんが。


というわけでブロック宇宙説よろしく過去へ時間旅行しましょう。

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