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2018年に「百合が俺を人間にしてくれた――宮澤伊織インタビュー」・「百合が俺を人間にしてくれた【2】――対談◆宮澤伊織×草野原々」という記事が公開された。それを受けて令丈ヒロ子が百合と異界は児童文学の伝統と言った。令丈は少女の成長といった変化について言及している。成長とは時間を伴う変化である。時間とは変化の従属概念である。原子概念ではない。


宮澤伊織は初めに百合に関わる概念や属性を説明し、次に巨大不明感情を挙げて関係について述べた。しかし、これは本当に関係そのものについての言及であろうか? 宮澤は「「感情」の動きをちゃんとやるとフィクションの「解像度」が高まるんです。」と述べている。「感情」の動きとは変化に他ならず、それに言及するのに宮澤は関係という言葉を用いている。令丈言説では成長という変化を時制を用いて表現したが、両者の間には関係を用いるか時制を用いるかの違いはあるが、宮澤言説が時制の還元を行っているのだと解釈すればどちらも変化について説明しようとしていると考えられる。


二つの言説は百合について述べているが、どちらもライプニッツ的な時空の概念がついて回る。


さて、表題についてだが、上記の記事は2018年のものであるが、既にニュートン的時空を飛び越えてquantumライプニッツ的時空の話をしている。ニュートン、ライプニッツの宇宙論と来れば次はアインシュタインである。現在の宇宙論はアインシュタインの一般相対性理論と特殊相対性理論を基礎としているが、2019年には何が起こったかと言うと、あるSF屋が百合で売れたのである。SF屋なのに百合で売れたのである。それどころか百合SFアンソロジーまで出している。


百合とSFの間に何の繋がりがあるのかと、SF読者は初めは思っていたことであろう。「時間と空間の哲学」というものがあるが、これは歴史的に実在論と関係がある。現在では物理学の領域にも関係している。実在論は古典的な実在論と科学的な実在論とがあって、詳しくは割愛するが科学的実在論は形而上学的実在論の一種である。すなわち、「時空」、「哲学」、「物理」、「科学」、「形而上学」と言うキーワードは、「実在論」というもう一つのキーワードを加えることで互いが線で結ばれる。また、これらは認知科学のまたがる領域でもあり、認知科学というものは関連するどれか一つの領域についてのみを見て説明を試みても上手くいかないし、知ることは出来ない。認知哲学や認知言語学、認知心理学。認知と頭につく分野は理系と文系といった排他的な分類はできない。例えば統計学等数学を用いて、世間では文系と思われている学問で検証をするからだ。このように古典的には科学ではないと考えられていた学問も現在では科学である。


宮澤は「百合が俺を人間にしてくれた【2】――対談◆宮澤伊織×草野原々」において形而上学を用いて百合を説明しようとしている。また、「百合が俺を人間にしてくれた――宮澤伊織インタビュー」記事中での宮澤の「(略)、架空の“女“は実在しませんが、架空の“女と女“の関係は実在するんですよ。」が説明している二つの「実在」とは、前者が実在論における実体を指していて、後者は関係性という人が認識する感覚要素を指していると著者は考える。


そして、百合も形而上学もライプニッツもアインシュタインもミンコフスキーでさえも一つの時間連続体、ブロック宇宙の中に位置している。それを実在論というスコープを通すことで百合とアインシュタインが連続している事を観測できる。


SF読者諸氏はスター・ウォーズは好きだろうか? 地球に居る人物と遥か銀河の彼方の惑星に居る人物とでは現在という要素を共有しない。相対性理論によれば時間の流れが異なるからだ。しかし、SF読者の方から見た遥か銀河の彼方には百合があって、タイムスケープには百合が見えるのである。


無限の彼方へさあ行こう!


長寿と繁栄を。

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