青葉と楓ーその鼓動(BL)

婭麟

第1話

暗い天井に目を凝らす。

眠れない時があるー。

じっと見入っていると静けさの中に、隣りの部屋に眠る楓の寝息が聞こえる様な気がする。

そんな時は息を止める様にして、楓の寝息を貪る様に探し求める。

寝息を貪る様に伺うだけで、鼓動が苦しい程に高鳴る。

脈拍数が上がり体温が上がる。

苦しくて苦しくて……息が止まるかと思う程に、高鳴る鼓動が早くなる。

自分ではどうする事もできず、股間に手を持っていく……。

楓のその細い躰を抱きたい。

なぜ自分は恋人に、この感情を持てないのだろう?

なぜ楓なのだろう?なぜ……?

隣りのベッドの軋む音に、楓が寝返りをうった事を知る。

静かな闇の中、楓が青葉を捕えて離さない。

ゆっくりと体を擡げると、楓の様子を探る様に神経を集中させた。


「………?」


微かに聞こえる楓の寝息……。

青葉は直ぐ側の壁に手をやって、その冷たい感覚を感じた。

冷たいがそのツルリとした感触が、楓の肌に置き換えられた。

思わず青葉は、無意識に壁に顔を近づけた。

微かに自分の息が壁に跳ね返ったので、始めて自分が何をしているのか気がついた。

青葉は思わず口元を綻ばせた。

こんなにも……こんなにも……。


「………」


再び楓が寝返りをうった。


「楓起きてるのか?」


青葉は小さく呟くと、徐に起き上がってドアノブに手を掛けた。

胸の鼓動が高鳴り、早くて苦しい……。

だけど、だけど……どうしても手に入れたい……。

微かに本当に少しだけ、楓の部屋のドアノブに手を掛けた時に手が震えた。

だが、それはほんの一瞬だけだった。

静かに音を立てずに、楓の部屋の中に入ると、楓はベッドに半身を起こして青葉を見つめた。


「なに?」


窓から差し込む月明かりで、楓は青葉の顔を認めて言った。


「………」


「またやりたいの?」


楓が見た事もない様な、妖艶な微笑みを浮かべる。

青葉が間男の様に忍び込んだ事を、察しているその笑顔。

青葉が今は、判然と間男として楓の元に訪れた確信。

楓はそれは妖艶な微笑みを浮かべて、青葉を見つめた。

キラキラと潤む黒目がちな瞳が、青葉を艶を持って誘った。

今まで見た事もない様な輝きを放って……。


「いいよ……どうせ一人じゃする気にならない……」


楓はそう言うと布団を剥いで、パジャマ姿の肢体を現して、片膝をゆっくりと立てた。


「お前……」


青葉は楓の細い躰に、吸い寄せられる様に抱きついた。


「煽ってんの?」


青葉が力強く抱きしめると、楓は鼻で笑って青葉を見つめた。


「へぇ?煽ってるって言うんだ?」


「……知らない訳ないよな?」


「さあ?どうだろう?」


そう言うわりに、恥じらう様に青葉の胸に顔を埋める。

鼓動が尚一層と早くなる。

楓が気がつく程に、高鳴りが増している。

喉が渇いて、唾を飲み込む事もままならない……それも楓に丸分かりだ。

楓が青葉の代わりに、唾を飲み込んだ。

それが合図の様に、青葉は楓の唇に吸い付いた。

前の行為で学習した楓は、待っていたかの様にそれに応えた。

青葉の渇いた口の中に、楓の唾液が流れ込んでくる。

青葉の渇きが、楓で潤いを与えられる。

今までどんなに睦み合っても、誰一人として与えてくれなかった、渇ききった青葉に潤いを与えてくれる……。

暫く二人は音を立てて、キスを繰り返した。

渇いた口の中で楓の舌が、潤いを無くした青葉の舌を絡め取った。

日照りの割れた大地に恵みの雨が降り注ぐ様に、楓を思い続けて割れた舌を潤してくれる。

青葉は幾度も幾度も唾を飲み込んだ、自分の唾も楓の唾も……。


青葉は離れがたそうにする楓の唇を、身を起こして見つめた。

焦がれに焦がれた形の良い少し厚めの唇は、今まで関係を持った女子よりも妖艶で淫らで青葉を魅了する。

青葉が楓のパジャマのボタンを外していくと、楓は青葉のパジャマの裾から手を入れて、青葉の躰に指を這わした。

予期せぬ楓の行動に、青葉は一瞬ボタンを持ったまま楓を凝視する。

楓はそんな真顔の青葉を、嘲る様な笑みを浮かべて見つめた。


「感じるんだ?」


「お前に触れられたら……」


「マジで?」


「マジで……」


青葉はそう言い切って直ぐに、楓の首筋に唇を付けた。

すると楓はかいなを青葉の背中に回した。


「はぁ……」


楓は青葉に舌を這わされて、身を捩って背中に回した腕に力を入れた。

青葉の舌が、楓の白い肌を舐め回す。

時たま肌を吸っては跡を残す。

この躰は自分の物だと誇示する様に、誰かにではなくて楓に分からせる為に……。

上半身を舐め回しながら青葉は、楓の股間に指を這わせていく。

楓は陶酔の色を放って微かな声を、青葉の耳元で発した。


「お前の中に入れてぇ……」


「?????」


「用意してないから……まさかお前が煽るとは、思わんかった」


「……じゃ、何で来たんだ?」


「お前に触れたくて……」


青葉は楓をジッと覗き込んで、唇を吸った。


「だけど、触れさせてくれるなんて、思ってなんか無い……」


「次から次と、彼女を替える癖に……」


「……お前の代わりに抱いてた……」


そう言うと、青葉は楓の股間を弄った。


「はぁ?マジで?」


楓はつぶらな瞳を、青葉に向けて微笑んだ。


「お前おかしいんじゃね?」


「うん、きっと可笑しい……お前の事ばかり考えてる俺は、きっとおかしくなってる……」


「俺がお前をおかしくしてんの?」


青葉に感じるところを弄られて、楓は身悶えながら青葉の耳元で甘い声を発して聞いた。


「うん……」


「じゃあ……もっとおかしくしてやるよ……」


「!!!」


楓は青葉の股間に手を這わせて、青葉の顔を覗き込んで言った。


「楓……ちょっと……ちょっと待って」


慌てる様に青葉が身を引く。


「お前に触られたら、マジでヤバい……」


それでも手を出してくる楓の手を、真顔を作って握りしめて直視する。


「言ってる分かるよな?」


「マジで?……って、この間は……」


「この間は香織とヤッた後だったから……」


「マジか?絶倫男」


楓は嘲るように笑むと、羞恥に堪えない表情の青葉に唇をつけた。


「……じゃあ、今度用意して来いよ……って言っても、今度があるかわかんないけどさ」


そう言うとまた唇を重ねる。


「……今夜は待ってらんない……」


そう言って音を立てて青葉の唇を吸うと、青葉の手を取って股間に再び持っていく。

青葉は楓の上にのしかかると、激しく唇を吸い合いながら、楓の股間を弄った。

青葉が優しく徐々に手の動きを早くしていくと、楓は唇を離して陶酔の渦に身を任せていく。そのまだちょっと不慣れな感じの、初々しさが残る仕草が、青葉を唆って虜にしていく。

一つ年下の弟は、今夜は淫らな娼婦の様に青葉を煽り、艶を放って誘う。

女子とも男子とも絡み合った事が無かった筈の楓が、一度青葉と関係を持っただけで、それだけでこんなに大胆に、妖艶に誘えるものだろうか……。

今まで何人も……中には年嵩のそれは手馴れたお姉さんもいたが、そんな彼女すらこんなに色香を放つ事は無かった……。

否、この色香は青葉だけの〝色香〟だ。

楓が青葉を誘えば、イチコロで青葉は悩殺やられる。

そしてそれをこれほどまでに放てるのは、青葉が楓にひたすら恋い焦がれている事を知っているからだ。

楓はずっとずっと前から知っていた。

年子の兄の青葉がただ自分にだけに向ける、熱い眼差し……。その眼差しが兄弟のではない事を知っていた。

だから、青葉がカマをかける様に言ってきた時、楓は提案にのって

自分の憶測が正しいのか、あんなにも取っ替え引っ替え彼女を替え、これ見よがしに情事の声を聞かせ続けた青葉の魂が、ただ自分のみに在るのか……覚えきれない彼女達にでは無く、自分にだけに注がれているのか……?

そして、今夜確信を持った。

青葉が起きている自分を見つめた時の、驚愕と安堵の表情を見た時に、青葉の思いが誰に在るのか判然とした。

楓は青葉を見つめながらほくそ笑んだ。

なぜだか口元が緩んだ。

女郎蜘蛛が雄蜘蛛を認めた時の様に……雌蟷螂が雄蟷螂を認めた時の様に……。


楓は青葉の腕の中で、声を押し殺す様にしてしがみついた。

渋面を作るその顔が美しい。普段恋い焦がれる可愛い顔より愛おしい。


「青葉……お前も一緒に……」


楓は吐息の様な声を発して、青葉の股間に手を這わす。


「お前も一緒に……したい……」


陶酔するその姿が青葉を刺激する。

かつて感じた事がない感覚を与える。


「うっ……」


一瞬楓の意識が何処かに飛んだかと思うと、楓は青葉を弄る手に力を入れた。


「一緒に堕ちよう……」


楓は尚も快感を追い求める様にしながらも、淫らに青葉を弄り続けて青葉の快感の彼方を見届けた。

二人は静かに全身の力を抜いて、互いが互いに弄り合った手の力を抜いていくー。

荒い息が互いの顔に吹きかかった。

微かな汗が滲む顔面を見つめ合って、笑みがこぼれる。


「お前はや……」


楓がそう言って嘲笑したかと思ったら、半身を起こして顔を歪めて青葉を見つめた。


「マジ?」


青葉を弄った為にべと付いた手を、青葉のパジャマのズボンから出して見せた。


「マジ」


青葉も身を起こして同様に、楓のズボンから弄りまくった手を出して頷いた。


「はぁ?」


楓は飛び上がる様にベッドから降りて立ち上がると、ズボンと下着を脱ぎ捨てた。


「シャワー……」


「馬鹿。親にバレるだろ?」


「だ、だって……だって……」


「ウエットティッシュでしのげ。朝シャワーするまで……」


青葉は自分も下半身を脱ぎ捨てると、ウエットティッシュで楓の手を拭いて、自分の物で濡れた下半身を拭きやった。


「お前、やらしい……」


「はぁ?だったら自分で拭けよ」


青葉がムッとして言う。


「……じゃなくて……」


もっと拭いてと言う様に、下半身を青葉に近づける。


「手慣れてる……彼女にもしてやるんだ?」


「ば、馬鹿か?するわけねぇだろ?」


青葉は呆れる様に一瞥すると、自分を拭きやりなが言い捨てた。


「こんな事させるのは、お前ぐらいなもんだ」


「???初めてでもか?」


でも……」


青葉は下半身を脱ぎ捨てたまま、ベッドに潜り込んだ。


「今夜は一緒に寝たい」


「なんで?」


「入れられ無かったから……」


「……待て、まだすんの?」


「……なわけねぇだろ?」


「いや、お前絶倫だから……」


楓は素っ裸のまま、青葉が待つベッドに潜り込んだ。


「キスしてもいい?」


青葉が楓を抱える様にして聞く。


「駄目」


「なんで?」


青葉が楓の耳元で囁く。


「お前絶対から……」


「じゃ、入れさせて」


楓は真顔を作って青葉を睨め付ける。

青葉は微笑んで楓を直視する。


「今度な……有るか無いか分からないけどな……」


楓はそう言いながらも、青葉の腕の中で目を閉じた。

青葉は今までとは違って、余裕の笑みを浮かべて楓を抱きしめた。

楓はきっと今度も青葉を受け入れる。

そしてそれはずっと続いていくー。

きっと青葉が望む限り続いていくー。

青葉がこうして望む限り続いていくー。

そうやっていくうちに、楓は青葉のものになる。

躰が?魂が?

それら全てが……。

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