第三十四話「さらば幻影島」
瞬間、ハガーマディンの目が怪しく光った。
GYEAGOOOOOOON!
要塞内部に鎮座していた、ハガーマディンが動き出す。
その巨体が動く度に、要塞の各部が崩れ、内側からの崩壊が始まる。
当然、光達がいる神前の間も、崩壊が始まった。
「ま、まずい!崩れ………!」
逃げようとしても、もう間に合わない。
一歩を踏み出した直後、足元の床が崩壊した。
「わああ!」
「きゃあ!」
突如足場を失い、その場にいる全てが、重力に従い瓦礫の中に飲み込まれる。
涼子が、光が、そして魔物の子供達が、要塞の崩壊と共に落ちてゆく。
もはや、これまでか。
「セクサードリルッ!」
その時であった。
光達の目に、瓦礫を引き裂いて紫の機体が現れたのは。
………………
要塞側で陽動をしていた部隊が、本隊に合流しようとしていたその時。
「要塞が!?」
小脇に捕まえた男を抱えたオーガの眼前で、要塞の一角が突如吹き飛ぶ。
GYEAGOOOOOOON!
内部から要塞を破壊し、ハガーマディンがその凶悪な姿を現した。
「か、怪獣だ!」
「逃げろ!」
「助けてぇ!」
いくら人間より頑丈な魔物少女とはいえ、50m台はあるハガーマディン相手には逃げるしかない。
逃げる人々の眼前で、ハガーマディンは街を破壊し、眼からのビームで街を焼く。
用済みとなったクロイツ教団の人々もどうでもよく、スティンクホーから見ても汚らわしい魔物少女を殲滅できるのだ。
暴れない訳がない。
GYEGAAAA!
暴れるハガーマディンの背後で、要塞の壁を突き破って現れる、ヒロイジェッター・オウル号とアター号。
オウル号からはセクサーヴィランの片手が展開し、その手のひらには涼子と光、そして魔物の子供達の姿。
要塞崩壊に巻き込まれる直前、救出したのだ。
「サンキュー準!助かったぜ!」
『お礼なら後にしなさい、それよりも鬼性獣よ!』
ハガーマディンは、その進路をエレラ達魔物の町に向けていた。
「あいつ、魔物少女の町を襲うつもりか!」
街には、非戦闘員の魔物少女や子供達がいる。
ハガーマディンの攻撃を受ければ、ひとたまりもないだろう。
涼子が焦りの表情を浮かべていると、涼子と光の前に二つの機影が飛来した。
「サーバル号?!」
「Cコマンダーも!」
自動操縦モードに切り替えたCコマンダーとサーバル号が、オウル号の左右を挟む形で並んだ。
『こちらと同じように、自動操縦で呼んだのよ』
「サンキュー準!」
『Cコマンダーはある程度は調査団の人に直してもらえたけど、ダメージはまだ残ってるわ、気を付けて』
準の言う通り、Cコマンダーの腕からはバチバチと火花が散っている。
『あの鬼性獣との戦闘のダメージで、私も朋恵ちゃんも合体できないの………涼子、頼めるかしら?』
並びに、今戦えるのがサーバル号だけと来た。
相手が飛べる分、こちらの方が不利。
「無理っつってもやるっきゃねーだろ!行くぜ光!」
「はい!涼子さん!」
それでも、やるしかない。
涼子はサーバル号に飛び乗り、光はCコマンダーの手を経由してコックピットに乗り込み、二機のマシンが天高く舞い上がる。
「上空からの奇襲で翼を破壊し、飛行手段を奪いましょう!」
「ようは羽根をブッ壊せばいいんだな!任せろ!」
遥か上空で重なる二機のマシン。
そして。
「ユナイテッド・フォーメーション!」
光の掛け声と共に、Cコマンダーの合体プログラムが起動。
股間のジョイントを展開し、その姿を合体形態へと変える。
「チェェーーンジッ!!セクサァーーギャァァルッ!!」
そして涼子の咆哮と共にサーバル号の各部が展開。
Cコマンダーと重なり、それぞれの大事な所が連結する。
「くぅっ………♡」
腕が飛び出し、足が飛び出す。
ボディとバストが、ぶるるんっ!と展開し、形作られる。
「かはぁっ………♡♡」
サーバル号の機首が頭部に変形し、最後に腰に半重力マントがはためき、合体が完了する。
「「あああぁぁ~~~っ♡♡♡」」
二人の快感と共に、虎のように大地を駆ける黒きセクサー・セクサーギャルへの合体が完了した。
GYEEE………
ジャングルの木々を踏み倒し、ハガーマディンがエレラの町に迫る。
「で、出た!教団の怪獣だ!」
「逃げろ!」
その巨体は街にいる人々にも映り、街の人々や魔物少女は恐怖し、逃げ出す。
そんな姿を見ていい気になったのか、わざとらしく鎌を振り上げるハガーマディン。
「こっちに来る!」
「ここまでか………!」
その姿は、街に残っていた彰とエレラにも見えていた。
もう、避難する事も間に合わない。
このまま、ハガーマディンに街ごと踏み潰されるしかないと思われた。
その時。
「セクサーキィィィーーーーック!!」
GYEEEEEEE?!
遥か上空から加速をつけた、一撃がハガーマディンの背部を直撃。
火花を立てて羽根がひしゃげ、ハガーマディンは悲痛の叫びと共に倒れる。
「あれは………!」
エレラが、その姿を見た。
「セクサーロボ!」
彰が、その名を呼んだ。
上司・徹平から又聞きした、鬼性獣に抗う巨大ロボットの名を。
「へっ、これで空は飛べねーな!」
立ち上がるハガーマディンの前には、街を守るように降り立つセクサーギャルの姿。
GYEGAAAA!
羽根を破壊された怒りを燃やし、ハガーマディンは両手の鎌を振り上げて突撃する。
「ダブルリスカタール!行くぜぇっ!!」
対するセクサーギャルも、両手からリスカタールを展開し、ハガーマディンに向け突撃する。
両者の手から展開した刃が激突する。
まるで、剣士が斬りあうように激しく、
鎌と刃がぶつかる度に、ガキンバキンと火花が散った。
GYEGAAAA!
ハガーマディンが両手の鎌を、プロレスのダブルスレッジハンマーのように叩きつけようとする。
「なんのぉ!」
対するセクサーギャルも、両手のリスカタールでそれを受け止めた。
つばぜり合う二体。
パワーではハガーマディンの方が上だったらしく、セクサーギャルは徐々に押されてゆく。
セクサーギャルの足元が、ハガーマディンのパワーに押されて、僅かだが陥没した。
GYEEEEEEE!GYEGAAAA!
このまま捻り潰してやる!と、勝ち誇って嗤うように響くハガーマディンの声。
セクサーギャルも、方膝をつこうとしていた。
「………何勝ち誇ってやがる?カマキリ野郎」
しかし、涼子からすれば、これも計算の内であった。
セクサーギャルの額。セクサービーム発射口がピンクに光る。
GYEEE!?
ハガーマディンが気づく。
しかし、もう遅い。
「セクサービィィーームッ!」
放たれるセクサービーム。
それは、鎌とリスカタールの合間を飛び、ハガーマディンの眼に直撃した。
GYEGAAAA!!!
人が眼をおおうように、ハガーマディンは鎌で顔を隠し、悶える。
眼を破壊された痛みと視界を奪われたショックで、パニックに陥っているのだ。
「そらよっ!」
そこに、セクサーギャルが腕を振るい、リスカタールの一撃。
ズォ!と、ハガーマディン右手が切り落とされる。
「もういっちょ!」
もう一撃。
今度は、左腕が切り落とされる。
ハガーマディンは、両手を失った。
GYEEE!!
ハガーマディンが背後に下がり、その、カマキリの腹を思わせる尾を振り上げた。
GYEGAAAA!!
咆哮と共に、尾から放たれる無数の刺。
ヒロイジェッターとCコマンダーを破壊し、調査団を乗せた飛行機を撃墜した、あの攻撃だ。
背後には街。
セクサーギャルは避けられない。
「二度も同じ手が通じるか!」
瞬間、涼子はセクサーギャルの胸部ハッチの片方を開く。
半透明の軟質装甲・クリスタルシリコンで形作られた乳房がブルルンッ!と揺れた。
セクサーギャル最大の破壊力を誇る必殺光線・セクサーバースト。
セクサーギャルの胸部ハッチを展開し、クリスタルシリコン無いでゼリンツ線を乱反射させて放つ大技。
胸(バスト)から 暴発(バースト)する、破壊の光。
その威力故に、地上では使えないとされる武器。
だが、涼子が片方のクリスタルシリコンを展開したのは、その為ではない。
「ゼリンツ線放出量、調整完了!」
「発射ぁ!」
瞬間、セクサーギャルの片乳から、低出力のゼリンツ線ビームが、まるでスプリンクラーから水を拡散するがごとく放たれる。
ハガーマディンが放った刺は、ゼリンツ線ビームによって作られた壁に跳ね返され、次々に地面に落下した。
「これもゼリンツ線のちょっとした応用さ!」
GYEGAAAA!
ハガーマディンも、見えないながらも自分の攻撃が不発だったと悟ったのか、その場から逃げようと駆け出す。
「逃がすかよ!」
みすみす見逃す涼子ではない。
セクサーギャルが露出した方乳を揺らしながら突撃し、逃げようとするハガーマディンの尻尾に掴みかかった。
「どりゃあ!」
GYEEE?!
半重力スカートにより、ハガーマディンを抱えたまま舞い上がるセクサーギャル。
「せーのっ!」
そして、ハガーマディンを空中でジャイアントスイングのように振り回し、投げる。
そこに、もう片方の胸のハッチを展開。
今度は、防御目的ではない。
「セクサーバーストォォォーーッ!! 」
クリスタルシリコンより放たれる、桃色の破壊の奔流。
避ける間もなく、ハガーマディンはその光の中に飲み込まれる。
GYEEE?!
ゼリンツ線のエネルギーは、ハガーマディンが断末魔をあげる前に、その身体を分解。爆発させる。
ズワォ!
幻影島の大空に、爆炎の華が咲いた。
「よし!」
「やりましたね!」
大地に降り立つセクサーギャルと、勝利を噛み締める涼子と光。
いつもならこれで終わるのだが、今回ばかりは勝手が違った。
「………ん?」
突如、空の色が変わった。
先程まで晴れた昼間だったのに、暗雲が立ち込め、風が吹きはじめる。
まるで台風のよう。
『緊急事態だ!』
セクサーギャルに、街にいる調査団の一人から通信が入る。
二機のヒロイジェッターも、同じ通信を受信している。
『さっきのデカイ奴を倒した途端、この島の周辺の磁場が乱れ始めている!』
時空を越え、幻影島をこちら側に呼び出したハガーマディンは、幻影島をこの西暦世界に結びつける為のターニングポイントでもあった。
そして、それが倒されたという事は。
「どういう事だ?!」
『世界が元に戻り始めてるんだ!このままでは、我々は一緒にブラス世界に飛ばされる!』
………………
教団と、その背後にいたハガーマディンは倒した。
だが、それにより幻影島が本来の場所であるブラス世界に帰ろうとしている。
このままでは、調査団もセクサーチームも、ブラス世界に飛ばされる事になる。
『皆さん急いで!早く!』
Cコマンダーに接続されたコンテナに、機材や研究結果を持って次々と乗り込む調査団員達。
持ち帰るもの全てをコンテナに積み、残りは団長の彰ただ一人。
『彰さん早く!』
彰がコンテナに乗り込もうとした、その時。
「彰」
ふと、彰の背後から声が響く。
島にいる間、何度も聞いた声。
「………エレラ」
彰が振り向くと、そこに居たのはエレラ。
悲しげな表情で、コンテナに乗ろうとする彰を見つめている。
幻影島が元のブラス世界に戻れば、西暦世界と交わる事は、おそらくもう無いだろう。
彰の足が、止まる。
「………私を、貴方の世界に連れていって」
「なっ?!」
エレラが発したその言葉に、彰は驚愕した。
町一つを守る魔女の立場を捨てて、何者でもないただの女になろうというのだ。
「もうゴネロス要塞も無いし、魔女ももう必要ないわ」
「だ、だが君は………」
「一緒に居たいの!」
エレラが、彰の胸に泣きつく。
偉大な魔女のはずの彼女が、まるでただの少女のように泣いていた。
「おねがい………側に置いて………」
エレラは本気だ。
エレラは心の底から、彰を愛している。
彰の心が揺らぐ。
科学者としての誇りか、それとも………。
『彰さん!早く!』
Cコマンダーから、搭乗を急かす光の声が響く。
既に、幻影島がこの世界から切り取られつつある。
早く脱出しなければならない。
彰の中に迷いが生まれる。
帰るべきか。
帰らざるべきか。
「俺は………!」
そして、答えは下された。
「岩清水くん!」
「は、はい!」
彰は、調査団の一人に、自身の荷物を渡す。
そして、困惑する彼に、言い放った。
「この中には、私が幻影島について調べたデータと、サンプルが入っている!君の手柄にするといい!」
「えっ?!」
「上には、工藤彰は死んだと伝えてくれ!俺は、この島でエレラと生きたい!」
彰が下した答えは、この幻影島に残る事だった。
迷うことなく、彼はそう答えた。
『早くしろ光!帰れなくなるぞ!』
上空では、ヒロイジェッターが待機している。
残された時間も、少ない。
『………Cコマンダー、離陸します!』
コンテナの扉を閉じ、Cコマンダーが飛翔する。
コックピットで光は、地上で抱き合う二人を見下ろしている。
本当にこれでいいのかと考えたが、もう迷っている時間もない。
彰とエレラに見守られながら、セクサーチームは幻影島を離れ、大空に消えてゆく………。
………………
その瞬間、幻影島は地球から姿を消した。
幻影島を使った商売を考えていた商人、領地にしようと狙っていた政治家が頭をかかえる事など知らぬというように。
幻影島は、本来の居場所………ブラス世界へと帰っていったのだ。
「………涼子さん」
「なんだ、光」
夕日に染まる太平洋上空を、日本に向けて飛ぶCコマンダーと、三機のヒロイジェッター。
「これで良かったんでしょうか、彰さんを置いていって………」
「あいつはあれで幸せだったんだよ、だからあの選択を選んだ、どっちにしろ、もう違う世界の話だからアタシらにゃ関係ないさ」
そう言いつつも、涼子は考える。
男はおろか、世間の規定から外れた女さえ生きにくいこの西暦世界と、
人と魔物が心から愛し合い、支え合うブラス世界。
どちらが幸せか。
「………案外、アタシらもブラス世界に残った方が、幸せに暮らせたかもな」
「そうですね………でも、僕達にはまだ、この世界でやる事があります」
「そうだな………」
彰は、もうこちらの世界に未練も何もなく、その上で、ブラス世界で生きる事を選んだ。
だが、セクサーチームはまだこちらの世界でやる事がある。
スティンクホーを倒すという使命が。
「よーし!セクサーチーム、日本に向けて発進!」
四機の機影が、轟音をたてて夕日の中に消えてゆく。
………一名を除き、幻影島調査団が無事帰還した事により、科学省は仕分けの危機を脱した。
幻影島から持ち帰られたサンプルやデータを研究するための予算は、相変わらず降りないが………。
彰がどうなったかは解らない。
そもそも、今の地球にはブラス世界に行く手段がない。
ただ、幻影島から持ち帰られたデータ、島に伝わっていた言い伝えの中に、こんな下りがある。
“異なる地より来たりし者、鉄の巨神と共に邪を滅し、去らん”
“ただ一人残りし者、それは、異なる地と世界を結ぶ架け橋とならん”
“遠き未来にて、我等と彼等の子供達が、手を結び合う時代のために”
後に、調査団の一人は、こう語った。
“いずれ訪れるいつかの未来、我々は再び幻影島に出会う事になる”
“その時、我々の子孫が恥ずかしい思いをしないために、我々が今できる事を考えなければならない”
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