湖畔の町


嵐の中を

天使が飛んでいた

しかも犬といっしょに

犬にも羽があるのだった

(良かったね………)

わたしはそう思うよ

墜落して

真っ赤なぐちゃぐちゃにならないでください

そうお願いした

翌日、嵐は過ぎ去った

湖には小舟がぽつんと浮かんでいた

そこに腰掛ける恋人たち

風は穏やかにその向きを変えて

笑顔と楽しそうにお喋りする声をここまで届けてくれた

見上げなくても

太陽はきっと輝いているだろう

それはいちいち確認しなくてもわかること

何も思うことはなかった

退屈な毎日がそこには広がっていて

でも

旅立つ時なのかな?

ひっそりと

夕飯の時刻に間に合わないわたしがいて

もう二度とここへ戻って来るべきではないのかな?

そして月日は流れた

あの静かな町はわたしのことを忘れ

それでもわたしは帰って来たよ

変わり果てたわたし

自分の名前を思い出せなくなってしまったわたし

ねえ

それでも迎えてくれるかな

あの日、見た天使はまだ空を飛んでいるのかな

そうだったらいいな

そうだったらずっといいな

わたしは取り返しがつかないほど変わってしまった

けれど何も変わらないものもこの世界にはあるのだと


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