真夏の影


天使が

溺れているよ

ぼくの知り合いの

天使だよ

雲の上でにこにことしていた

あの

可愛らしい天使だよ

ぼくはじいっと

見ていたよ

助けてほしいの?

言葉は通じなかったけど

やがて知らないお兄さんがやって来て

ぼくの隣りに腰掛けた

さっきまで女の人も一緒だったのに

でも今は一人で

ぼくの近くで黙っていたんだよ

「殺しちまえよ」

お兄さんはそう言って

でも手は隠したままだった

天使が溺れているよ

よく見たら

全然、ぼくの知らない天使だったよ

初対面の

全く関係のない天使だよ

羽根が生えていて

でもそれはずっしりと水を含んで

ぼくは天使ではないから

本当の気持ちはわからないけど

図鑑には載っていないよ

存在しないことにされているよ

でも今ぼくの目の前にいるのは

天使だよ

紛れも無く天使だよ

天使がじたばたとしているよ

やがてぷかぷかと浮いたよ

辺りは

静か

お兄さんは

殺された

それは真夏の午後のことだった

影が濃かった

ぼくは随分、前に殺された少年らしい


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