流星の如く駆け抜ける、夜


おれの名前は知らない

けれど首には生まれた時からネックレスがぶら下がっている

それはキラリと光り文字が刻み込まれているのがわかる

『しゃけ』

多分、これをくれた奴は馬鹿なのだろう

おれは捨て子

そんな不遇な環境にもめげず施設で育ち万引きなどを日課にしてこの大都会をサバイヴしてきた

年頃になると同じような境遇の子供たちと一緒にバンドを組んだ

バンドの名前は『捨て子ザウルス』

おれはそのギターボーカルを担当した

口ずさみやすいメロディーが売りのパンキッシュロックバンドだ

リスナーは主に十代

仲間の大切さを訴えていきたいと思っている

ドラマーはモヒカンでデブ

先週、連続幼女強姦容疑で逮捕された

「信じてるぜっ」

おれたちはまだ熱狂の冷めやらないライブハウスでお互いがっちりと握手を交わし合った

デブは即、自供した

「すんません、おれがやりました」

おれは思った

もうあんな奴、仲間でもなんでもないと

嫌がる幼女のスカートを捲りその中に自らの怒張した陰茎を突っ込むなんて人間のやることではない

悪魔だ

夜空の星に願った

(あのデブが一刻も早く処刑されますように………)

おれにとっては被害者の気持ちが最優先だからだ

早速、その気持ちを歌にしてリスナーに届けることにした

自分に出来ることはそれぐらいだと思った

翌日の晩にライブで披露した

「レイプ♪ レイプ♪ レイプ♪」

陽気なサンバのリズムが創り出すムードに場内は凍りついた

おれは笑いながら腰を振り歌い続けた

「楽しいレイプ♪」

まずは男のレイプ願望を直視する

そしてサビに突入すると同時にそれまでを全否定するつもりだった

おれをそこら辺の三流ミュージシャンと一緒にしないでほしい

現実からかけ離れた理想論をいくら唱えようとも観客の心に届かなければただ虚しいだけ

おれはあのデブが年端もいかない幼女に欲情した気持ちを直視した

陽気にマラカスを振り口ずさんだ

「レイプ♪ レイプ♪」

だが興が乗りすぎてレイプの楽しさを歌ったまま曲が終わってしまった

これではただのレイプ讃歌ではないか

ライブ会場は大ブーイング

結局おれはその日、レイプ犯の同族として大いにバッシングされた

「くそっ、今に見てろよ………」

世界平和を願って作成されたジョンレノンのイマジンを超えるような名曲を作ることに決めた

だが世間の風は冷たく

「レイプ野郎がイメージアップを図り心にも無い事をぬかしていやがる」

などという誹謗中傷によっておれの心は大いに傷付けられた


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