4.家族の紅茶〈Christmas Tea〉②


    ◇◆◇


 忙しかった夏の記憶が遠ざかるにつれ、《渚》は近所の常連さんたちが集まるコミュニティスペースのような場に変化していった。

 暇があれば、近所の誰かがおしゃべりをしにやって来る。

 場として求められているのを感じられるようになると、暇な時間があっても以前ほどは気にならなくなった。


 そんな十二月初旬のある日の夕刻のこと。

 来訪者は突然だった。

 昼下がりのティータイムを過ぎて客足が途絶え、クリスマスの飾りつけをしようと折り紙とハサミを店の片すみで駆使していたときだった。片田舎のリゾート地を観光で訪れるにはあまりに不似合いな、高そうなファーのついたコートにワンピーススーツ姿の五十代半ばくらいの女性が現れた。


「いらっしゃいませ!」


 三十分ぶりのお客さんにはり切って声をかけたものの、黒く染めた髪を一つにひっつめたその女性は私の姿を認めるなり表情をこれでもかと険しくした。そして眉間に皺を寄せ、誰もいないカウンターの方に鋭く目をやる。


「秀二さんは?」


 深い怒りをたたえて名を呼ぶ声に、あまり嬉しくないお客さんの予感がした。


「店の奥に……あの、そちらの席におかけください。すぐに呼んで──」


 直後、女性の眉間の皺がさらに深くなってその視線の先を見ると、店の奥から紅茶の缶を手にした秀二さんが戻ってきたところだった。

 女性の姿を認めるなり、その顔から表情が抜け落ちる。


「母さん……?」



―――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――

母の登場で明かされる、秀二の正体。

《Tea Room 渚》に訪れる、存続の危機。


「……店がなくなったら、私、どうしたらいいんですか?」

「どうするかは、自分で決めることでしょう。ルールもそういうつもりで決めています」


『どちらか一方の申し出により、いつでも関係を解消できる』

《4つのルール》に揺れる二人は、どんな道を選ぶのか――。


気になる続きは、大好評発売中のメディアワークス文庫『ニセモノ夫婦の紅茶店~あなたを迎える幸せの一杯~』にて!(シリーズ第2巻も絶賛発売中!)


そして、神戸遥真の注目の新作

『訳ありブランドで働いています。~王様が仕立てる特別な一着~』

のカクヨム特別大ボリューム先行連載が、次回2019年10月2日よりスタート!

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