第27話 乙女チック・ヒーローの日記


 ### 最初の日


 目が覚めた。

 ゆっくり、目を開ける。

 青空。緑。ここは森の中。

 ……どうやら温かい湯に浸かって仰向けに浮いてるようだ。

 プカプカ。

 浮かんで空を眺める。


 ああ気持ちいい。




 ### お腹がすいた日


 どうも腹が減った。

 ……そういえば、ずっと何も食べてない。

 そこら辺にいるやつ食べよう。

 そこらの動物、ポカリとやって食べようか?

 う~ん、いま一つ、生物は気分じゃない。


 もう寝る!




 ### 初めての子分に初めて会った日


 まったくもって腹減った。

 生でもいい! 喰っちゃおう。

 どうせ食べるなら太ったやつにしよう~。


 湯に毎日浸かったせいか毛並みツヤツヤだ。

 それなのに腹が減ってるのが、なんとも腹立たしい。


 少し歩くと、小屋が見えた。

 おお! でかいブタがいる、アレならいけそうだ。


 人間も居た。


 ブタを食べようとすると、しがみ付いて来て止めようとする。

 ちょっとうっとおしい。

 ポカリとやったろか……う~む、悪いヤツではない。


 ……うまい物を持ってきた。


 よし! お前は、あたしの子分にしてやるのだ。




 ### うまい物を食べつつもヒマを感じた日


 子分は、のそのそ食料を運んで来る。

 なかなか良いやつだ。


 いろんな料理を持ってくるところがイイ! 分かってるのだぁ。

 あたしはグルメなのだ。


 ……でもこの毎日は、ちょっと退屈だな。




 ### 頭が痛かった日、いや、素敵な人を見た日


 ちょいとおヒマなので、子分の働く家に行ってみた。


 ……どうやら今日は人の動きが激しい。

 あ! 見たことが無いやつがいるのだ。


 こっちへ来いと手招きする。あたしに生意気だぁ!


 嫌な気配、こっそりしててもお見通し。

 うっ! 頭痛い! 頭痛いよ~!!


 あたしは森へ去った。

 う~頭痛いのが治った。

 なんだ! この痛いの。黙れ! ばか。


 ウフフ、あいつ生意気だが、ちょっと頭がカッコイイ。




 ### 真ん丸お月様の日


 今日は夜に出かけたくなる気分。

 ロマンチックなあたし。


 何か唸ってる。

 なんだぁ! そんな声。怖くないのだ。

 あたしの方がすごい「ガハハハ!」


 ちょっとカッコイイあいつがいる家。

 今日は夜なのに明かりチラチラ。


 いつか一緒にお食事しましょ。




 ### 白いヤツを見た日


 あたしは白くて可愛い。

 だ~がしかし! ほんとは薄いピンク色なのだ!


 真っ白いやつは気に入らん!

 森で見た。

 人間か? 変な匂い。

 ヘンな事したらポカリとぶっ飛ばす。




 ### 馬に乗りたいと思った日


 なかなかの馬、だけどかけっこでは負けない!

 余裕でついて行くあたし。


 馬に乗りたい。

 カピと一緒に。




 ### 黒くて牙の生えたヤツが来た日


 何か嫌な風が吹くぜぃ。

 でも何かあったら、あたしの腕がうなるのだ。


 カピがいる、あの家を見に行こ~。

 そろそろ、直接会っちゃおうかなぁ~ガハハ。

 ポッ、恥ずかしいからーや~めた~。


 う~ん黒い匂いのヤツ。牙のあるやつ。ありゃあ人間かぁ?


 やっぱ、あたしも家に入ろかな~。

 子分に合図する! ガ~ン。

 あいつめ! 気が付かないのだ!! ブゥ~!!!




 ### 子分を叱った日


 子分がいつものように食事を持ってきた。

 相変わらず美味いが。


 ちょっと待てなのだ、料理は冷めた方が美味いのか?


 あたしも食事に招待しろ~。


 あのカピに合わせろ~っとは言わないぜぃ。

 ガハハ、ちょい恥ずかしいのだ~。


 ムムム、子分め! 良い返事をしない。

 あたしは怒った!


 そんなやつとはもうオサラバだぜぃ。




 ### 黒いヤツを見た日


 今日は黒いヤツを見た。

 前のやつとは違う完全に黒いヤツ。

 違いが分かる女、それがあたし。


 ああ! あいつめ~、あたしの縄張りで!


 やるしかないぜぇい。




 ### 最強のあたしを見て欲しかった日


 いた! 黒いヤツ。やっと見つけたのだ!


 よくもあたしの仲間を~! ゆるさなぃ。

 な~んて言っちゃって、カッコイイぜぃあたし。


 正直に書くと、なかなかの相手だったぞぃ。


 パンチパンチ!

 立ち上がって来る、やるなお主。


 こりゃ、本気を出さねばなるまい。


 超本気パンチパンチ!

 ありゃ、やりすぎちゃったのだ。

 死体も残らず消えちった、ガハハ。


 こんなに強いあたしを、カピも見たらきっと驚くのだぁ、ポッ。




 ### 不覚ながらお休みの日


 ちぃっ、ハードな戦いで疲れちったぞぃ。

 しばし温泉に浸かって、お休みするのだ。


 プカ~。




 ### ヒーローの一番長い日


 すっかり復活! 腹がペコペコなのだ。


 仕方ねぇぜぃ、子分をそろそろ許してやるか。

 久しぶりにカピの家を見に行くのだ。


 ああ! 子分が! 知らん娘っ子と歩いてる!

 チッ、気のせいか、いつもより笑顔なのだ。


 こっそり後を付けちゃうのだ、ガハハ。


 ん、誰だ?

 周りにたくさんの気配。

 かくれんぼか? あたしの目はごまかせねぇぜい。


 ありゃりゃあ、子分のヤツ、囲まれちった。


 何してるのだ!

 そんな弱っちいやつら相手に、情けないのだ~。

 ボコボコなのだ~やられてるのだ~ガハハハッ笑っちゃうのだ!

 ぷっ、お尻蹴られてカッコ悪いのだ~!


 フン! おやびんを軽く見る子分など、助けに行かないのだ。

 美味しい食べ物をいくら持って来るって言ったって。



 ぬぬぬ、なんだ! イライラ!


 もう終わりなのか、もう立てないのか? せっかく子分にしてやったのに。


 そんな弱いやつは知らん!


 !! また毛がサワサワした。

 あの人間たちめ、気配を探ってるぞぃ、無駄無駄!


 ったくなのだ。

 娘っ子を守ってるのか? あ~あ。




 こんな奴ら、ほって置いて、久しぶりにカピの家に一人で行こ~う……。


 ……。


 …………。



 と、思わせて、どっこい! 光の速さで近づき! ヘッドアタッ~ク!


 『マルスフィーアにナイフを振り下ろした、強襲者リーダーのシザー』

 『突然、近くの茂みから飛び出した、白い影に気づく間も無く「ウギェッ」短い悲鳴を残し、意識無く、数メートル先の大木に激突した』



 素早く空中回転くるりん~、スタッっと華麗に着地なのだ!


 『たった今、自分たちの目の前で、いったい何が起きたのか全く理解できない、スモレニィを痛めつけていたローグの二人組。ただただ目を見開き立ち尽くすのみ』



 お前たち許さ~ん! よくもあたしのカワイイ子分の~、運ぶ荷物を~!!

 な~んて、ウフフ。


 『トコトコと四足で近づいてくる白い生き物、立ち上がると小さな手をギュッと拳にした。ピョン! とジャンプして、ヒュン! ヒュン! 二度、風の音がしたかと思った瞬間、ローグたちの顎が砕け、折れた前歯が宙を舞った』

 『幸いにも、強烈なフックは彼らの脳を激しく揺らし、痛みを感じる隙も無く無意識の世界に沈んだ』



 思ったとおり、激よわだぜぃ。

 これじゃあ、撫でるほどのパンチしか使えないぞぃ。


 残り三人。

 おんなじ目にあわせてやろうとしたら、弓のヤツが手を大きく振ってる。

 ゆるしてくれ~と言ってるのだ。


 『弓使いの男は、慌てて叫んだ、マルスフィーアに向かって』

 『「待て! 待て! 俺はあいつらに、ただ雇われただけだ! 許してくれぇ。こっこの白い悪魔! 恐ろしい召喚獣を収めてくれ~、たっ頼むっどうかお願いだぁ」』



 だ~れが、召喚獣だぁ! あたしは~。


 『白い悪魔は「イモ~!」と一声吼え、震える男にそっと寄り添う』



 ボコッとおなかに一発打ち込んでやったぞぃ。


 『弓使いは、今まで経験したことのない痛みを味わった。許容範囲を超えた脳の痛み回路がショートすると、白目をむいて崩れ落ちた』

 『後の二人は、石像の様に呆けて突っ立っている』



 ……。


 もういいや。


 あたしはグ~すか寝てる子分のところへ行き、ビビビ・ビンタで起こした。

 いいか? なのだ。

 みっともない子分を助けるためじゃねぇぜい。

 食事を頂くためだぜい。


 当たり前~。子分の持ってたもの全部食べてやったのだあ。


 娘っ子がビービー泣いてしがみ付いて来る。

 柔っこくて、いい匂いがする。まあ悪いヤツではないのだ。


 いいだろう、お前も今日から子分なのだ。

 うん! そうなのだ、あたしのクッション係になるのだ。

 ガハハハッ。


 ……。


 なんだって!?

 カピに会わせる? ガハハ、こいつ~、気が利くのだ~分かってるのだ。


 ウフフ、これから初めてのお食事会なのだ。

 ディナーのご様子は、あとで書~こう。




 ## ん!? だれだ! お前!

 あたしの!! 乙女の日記を覗き見るやつは~!

 うぉ~!! 恥ずかしいのだ~いやなのだ~ムムムぅ、もう止めたのだ!!


 もう日記は書かないのだ!!!

 フンッなのだ。


 

 <第二部 完>


 アイムトリッパⅢに続く

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