チューリングテスト

ザード@

機械と人間を見分けよう!

「ライトさんですね。本人認証プロトコルを開始します。量子鍵を共有してください」

 奇妙な一室。壁は鉄で出来ており、椅子とモニターと入力端末とスピーカーがあるだけ。ライトは未だ椅子に腰掛けずにいた。入力端末に触れ、量子鍵を共有する。プロトコルとして自身のオブザーバルで量子鍵を演算し、その結果を送信する。

「本人認証プロトコル完了。ライトさん本人と認めます」

 スピーカーからの合成音声――言うほど機械的ではないが――は続ける。

「今回参加いただくテストは研究活動の一環であり、人間と機械を見分けるテストです。古くはチューリングテストという名称で知られていたものといえばお分かりいただけるでしょうか。これから二つのチャットをオープンします。片方は人間が応答しており、もう片方は機械が応答しています。質問を無制限に投げかけることでどちらが機械なのかを見抜いてください。この結果は今後の研究に反映されます」

 ライトはそこまで聞くとやっと椅子に座り込んだ。


 入力端末を用いてテスト開始を入力するとすぐに回線が外部とつながりチャットがオープンした。ライトは早速両方のチャットにそれぞれ挨拶を入力する。

「こんにちは」

「こんにちは」

 返答からはもちろん特定出来ない。

「まずは前提条件の共有として、本日行われているテストの内容はお互いご存知という理解で問題ないですか?」

 ライトは再度二つのチャットに全く同じ質問を投げかける。

 左のウィンドウのチャットからは

「はい。大丈夫です」という返答が、右のチャットからは「機械と人間を見分けるテストだと聞いています」という返事があった。

 どうやら機械はかなり優秀なAIのようだとライトは思い始めた。


 しばらくチャットを続けるが、違和感はどちらのチャットにもあるし、直感では右のチャットが怪しいが確証がつかめない。ライトは半ばヤケになって以下の文章を入力して双方に送った。

「どうすれば尻尾を出しますか」

 しばらく返事はなかった。

「テストの根幹を否定する気ですか」左のチャット。

「興味深い発言だと思いますがお答えできません」右のチャット。


 それから更に会話を続ける。そろそろ疲れてきたと思い始めた。

「尊敬する人を教えてください」そういえばこの質問をしていなかったなとライトは思い、試しに打ち込んだ。

「アインシュタインです」左のチャット。

「ミゲール博士です」右のチャット。

 左のウィンドウからはアインシュタインという随分と古い人間の名前が。右のチャットからはつい最近強力なソフトウェアを開発した博士の名前が出てくる。でも何故ミゲール博士なのだ? 確かに凄まじい研究を成し遂げた人だが、その研究内容は人間を模倣するロボットを作成することだ。ライトの判断はここで決まった。


 端末から入力し、解答ボックスをオープンする。

「右が機械、と」

 答えを入力し、研究の参考のためチャット履歴を保存しますという記述に署名し、最後に表示されたお疲れ様ですの文字を読んで立ち上がり部屋を出る。


 部屋は研究所と繋がっていた。博士がおり、拍手で出迎える。

「おめでとう。正しく人間と機械を識別出来るとは君はアンドロイドを超えたよ」

 ライトは今まで端末に繋いでいた配線を皮膚の内部に格納すると、頭をくるくると一回転してみせた。

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チューリングテスト ザード@ @world_fantasia

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