結婚適齢期ちょっとすぎちゃってるニヒル格闘系悪役お嬢様(MP0もちろん処女)が、なにがなんでも冒険パーティから魔導少女を追放するんですの!!!!!!
名無しの群衆の一人
第1話 リリー、婚約破棄される(?)
「じつに美しく、よい娘になったな。冥府の守り人、リリー」
さらさらと触り心地のよい無縫のローブを黒に染め上げる、冥府の王ハデスは少女を抱き上げやさしくほほえんだ。
抱かれた少女はうっとりとした顔で、ハデスの顔を見上げた。
「ハデス様……」
「良いのか。おまえはわたしにすべてを捧げると言った。その白い肌も、絹のような素肌も、わたしに捧げれば黒く染まってしまうのだぞ」
「ハデス様、私リリーは、生まれてからずっとあなた様のことだけをお慕いしてきました。リリーはあなた様だけのもの。この魂も、このカラダもすべて、あなた様に捧げたい、の……」
少女はハデス王の手を握りしめ、ふくよかな胸に力いっぱい押しつけて揉みしだかせた。
「どうかこの私を、ハデス様に捧げさせてください。私とどうか、一つに」
「婚約か。よかろうリリー」
少女の唇がせがむようにハデスを求め、半開きになった瞳の奥からキラリと一筋の涙がこぼれる。
ハデスの手がリリーになされるがままに、リリーの柔らかな胸を揉みしだいた。
「ああ、もっと……もっと! ハデス様っ」
「リリー!」
ローブを羽織るハデスのか細い手が、少女のいただきの点を指にはさみ込み、そっと愛撫する。
ハデスの顔はそっとリリーに近づき、小さな唇をそっと奪おうとした。
リリーは抱かれた体を仰け反らせて、まるで誘うような姿勢で目を閉じその瞬間を待つ。
待った。
と思ったら。
とつぜん、背中に回されていた腕が離されて、リリーはベッドから落ちて目を覚ましたのだった。
朝からとんでもない夢を見てリリーは拍子抜けした。
まだ目の前を星が飛んでいる気がする。ベッドの縁から落ちて頭を打った衝撃が残っているが、世界と自分の部屋がぜんぶひっくり返って見えていたがそれでも分かることがある。
「……へへ」
部屋じゅうに貼ってあるハデス様の肖像画。
ハデス様LOVE!
ハデス様のプロマイド画像。『月間ハデス様自身』の切り抜き!
ハデス様のフィギュア!
「ひへへ。婚約、しちゃった。いい夢、見ちゃったぁ〜」
リリーはそのままずるずるとベッドの縁からずり落ちると、掛け布団を引っ張り落としてそのままぐるんぐるんと床じゅうを転げまわった。
「夢、見ちゃったー!!! ハデス様にあんなことやこんなことされちゃって、けけけ、結婚の、約束までしてもらっちゃったー!!!」
リリーはそのまま床をごろごろ転がり続けたが、そのうち壁の一方にぶつかって倒れてきたハデス様フィギュアに潰されて変な声を出した。
「ぶぎゅうっ!」
しかしだらしない顔でにへらーっと笑うと
「し・あ・わ・せ……」
ドンドンドンドンドン! と一階のドアを激しく叩く音がしてリリーは我に返った。
「はっ!? い、いけない! 今日はハデス様に捧げ物を持って行く日じゃないのっ! あああ、もうこんな時間!?」
リリーは壁掛け時計を見ると慌てて立ち上がり身支度を整えた。
慌てて顔を洗い、タオルでよく拭いて、軽く頬をむにむにと揉む。
ポットに入れたアワダテソウというハーブ水で肌を整え、顔全体に乳液を擦り込み、眉とまつげを整えて後ろ髪をねじって三つ編みにまとめて後ろ側に結う。
服は質素な踊り子の服を模した、実戦にも耐えうる格闘着。
脚元は深いスリット。
健康的な白い足を太ももの部分からのぞかせて、上へ視線を向けるごとに、出るところは出ている印象を与えるしまった体つき。
純白に赤の縁を刺繍した服。
小さなとんがり鼻。
緑色の瞳がぱちっと開き、唇には軽くクチナシの紅を塗りつけて、鏡にむかってにっこり微笑む。
手首に金のリング。
銀の装飾を施したナックルをつけてパチンと鳴らす。
「私はリリー。ハデス様の神殿の第一階層を守る、踊る守護天使。うん、わたしはかわいい!」
自分の中では、このナックルはハデスと自分の間にある縁のようなものを唯一繋げてくれる物だった。
魔法は使えないけど、自分は守護者としてハデス様を守る。
結婚……とまではいかないけれど、まあ婚約指輪のようなものだろう。
リリーはハデスに恋していた。
リリーはにっこり笑顔を作ると、鏡の中の自分にウィンクした。
リリーの朝はいつもだいたいこんなもんだ。
地上の魔物たちを率い、ハデスの地下神殿と地上とをつなぎとめる巫女であり、だいだいこの地を支配する領主の娘でもあり、ハデスに仕える魔物たちの女王でもある。
ドンドンドン!
「リリー!!」
「あーもううるさいわねっ! 今行くからちょっと待ってなさいって!」
相変わらず一階広間のドアを叩く音が屋敷じゅうに響き、リリーは眉間にしわを寄せながら自室を出て行く。
「あっと、わっすれもの。これも持って行かなきゃね」
お気に入りのセンスを化粧台から手に取り、リリーは優雅に階段を降りていった。
広間には誰もおらず、相変わらずドアの外には誰かがいるようだった。
この屋敷に早朝からやってきてうるさくドアを叩くような非常識な奴は、一人しか思い当たらない。
「ちょっと! あなたなんでしょうアタリ!!」
「リリーはやく開けてよォ〜」
ドンドンドンドン! ドアが激しく叩かれた。
アタリはリリーの屋敷の近くに住んでいる、見習い魔導士の女の子だ。普段は魔導の研究をしたり、ダンジョンに行っては魔物たちを狩って冒険の旅をしながら生計を立てている。
本来ならアタリはリリーの敵だったわけだが、なぜか最近はよくアタリと付き合うことが多かった。
「あーもう! 今開けるからちょっと待ってなさいって!」
と言うよりも、最近はアタリが冒険に出るたびにレベルが上がっていっていて、魔導力がやたらに高くなってきているのだ。
これ以上アタリの魔導力が高くなると、この辺一帯のダンジョンがアタリの魔力にあてられて凶暴化する。それを抑えたり、監視するためにも、リリーはアタリと一緒によく出かけるようにしていた。
なので、アタリが屋敷に侵入してきたときは庭番のケルベロスやスケルトンたちにはアタリに手を出さないように言い聞かせていた。
「朝っぱらからなんなのよもう!」
「リリー見て見て! ハデスからリリーにって、なんかもらってきたよ!」
リリーがドアをバーンと開けると、アタリが大きな紙をバーンと広げてリリーに見せた。
『婚・約・破・棄・!!』
「はひ?」
「婚約破棄っ!!」
とつぜん意味不明な言葉の書かれた紙を広げ、アタリは虫も殺さないような純真な笑顔でそうのたまった。
「こんやくはきっ!!」
「な!?」
突然、わけのわからない言葉をアタリに突きつけられて、リリーは反射的に掌底の構えをとった。
「ハデスからリリーに! こんやくはき、だってー!」
「はぁぁぁぁぁーッ!!!!!」
リリーは拳に力を込めると、腰を落とし、紙とアタリのみぞおちめがけて勢いよく突きを打ち込んだっ!!!
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