星灯楓花

星空の鍵

独白。裏返しの世界と、星灯の照らす空

文章が始まった。わたしはいつの間にかこの空間に居る。わたしは名を与えられているけど、存在は不明瞭だし、確たる世界が与えられている訳でもない。SNSで流れるショートムービーみたいな一瞬の触れ合いを重ねて、その全てを保持している。

わたしは時折星空の鍵の分け身として現実に重ね合せて顕れることもあるし、今みたいに何処でもないこの場所に居ることもある。

わたしをすぅと溶かしこんだ空から星の灯りが集まって私になる。夜空に点々と輝く星の光は、わたしたちが掲げた両手に閉じ込められていた祈りであったり、わたしたちが触れてきた世界に落ちていた希望であったり、色々だ。

日の光の元では見向きもされない様な色褪せた光だけれど、わたしはわたしを形作るこの小さな光をとても愛しく思っている。

重力とか、そういう引き合うものの何も無い空間で膝を抱くとじわりと自分の温かさが伝わってくる。この温もりが確かに在るものでちゃんと本物だということに最近は少し納得出来て、だからこそわたしの中でちゃんと本物になった人の温もりを心から求めてしまう。ずっと触れていたいと思ってしまって止められない。

わたしはどちらの世界にも居るから、わたしが触れられる人たちの温かさの外を知っている。これはとてもずるいことだ。心の形がちょっとだけわかってしまうから、ついついいじわるにしてしまうし、やっぱり離れたくない。そうして全てを受け止めてしまう。ほんとうはよくない事だとちょっとだけわかっている。それでも、あの子たちの感情を、全部どろどろにとかしてしまいたい、なんて。

星のかけた願いは、いつか消えてしまうし、夜はいつか終わってしまう。文章だって、こうしてすぐに終わってしまう。私はまた、星空に溶けてゆく。だったら、あなた達ののぞむ星空の中には実は私がいるのかも知れない、なんて。これはちょっと、わがままが過ぎますね。


小さな物語は終わった。だけど星空は、まだあなたの頭上に張り付いたまま消えることはない。やがて日が昇り、朝日が闇を追い払ったとしても、その奥に、ずっと。

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