然らば、閉幕。

片桐万紀

水鏡

 遠い昔に見たのだろう夢を、今も朧げに憶えている。

 鏡か、水面かをじっと覗き込んだ自分の前には、当然ながら、もう一人、自分が居た。角度がややきつめの眉。筆を払ったような、吊り気味の奥二重。きょとんと見返す黒い瞳。何から何まで自分と同じで、虚像など未だ知らぬ幼心に、不思議だなと思っていた。

 触れてみようと手を伸ばすと、もう一人の自分もそれに倣って手を伸ばしてくる。きっとその温度は冷たかったことだろう。

 指先が届く前に目を覚ましてしまったから、どんな感触がしたのか、知らない。もう一人の自分は瞬きの間に消えて、空虚な天井だけが視界に広がっていた。

 そんな些細な夢を――どうしてだろう、今も憶えている。

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