然らば、閉幕。
片桐万紀
水鏡
遠い昔に見たのだろう夢を、今も朧げに憶えている。
鏡か、水面かをじっと覗き込んだ自分の前には、当然ながら、もう一人、自分が居た。角度がややきつめの眉。筆を払ったような、吊り気味の奥二重。きょとんと見返す黒い瞳。何から何まで自分と同じで、虚像など未だ知らぬ幼心に、不思議だなと思っていた。
触れてみようと手を伸ばすと、もう一人の自分もそれに倣って手を伸ばしてくる。きっとその温度は冷たかったことだろう。
指先が届く前に目を覚ましてしまったから、どんな感触がしたのか、知らない。もう一人の自分は瞬きの間に消えて、空虚な天井だけが視界に広がっていた。
そんな些細な夢を――どうしてだろう、今も憶えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます