第25話 エリス対アリシア 散華対蓮華
エリス対アリシア。
ダークエルフ対エルフの戦いだ。
エルフは一般に魔法全般が得意と言われている。ダークエルフもそれは同じだ。
闇の妖精とも呼ばれるダークエルフは魔族と同様、一般的な特性として闇魔法が得意だ。逆にエルフは光魔法が得意である。
だが、その闇魔法もあまり効果が無かった。
エリスは毒づく。
「その鎧。厄介ね。闇魔法防御がついているのかしら?」
闇の鎧だけあって闇耐性が高い。とはいえ着ている方にも負担がある。
アリシアは最初着た時には立ち上がれなかったほどだ。それはエルフゆえだろう。
鎧に飲まれないように「大丈夫。大丈夫なんだ」と言い聞かせる。
魔法が功を奏さないと分かるとエリスは武器を構えた。
アリシアと同じ
それを見てアリシアも同様に剣を構える。
エリスが先に仕掛ける!
アリシアがそれを払い、返す!
エリスはそれを躱しざま突きかかる!
剣の応酬が始まった。
互いの剣が火花を散らす。細剣がぶつかり合い甲高い音を鳴らしていく。
互いに一歩も引かない。互角の戦いだ。
それがしばらく続いていたが……
次第に均衡が崩れ始めていた。
「くっ……うっ……」
アリシアが苦し気に呻く。
エリスの剣が鎧を掠めていく。
「ふふ。そういう事……。その鎧、かなり辛そうね? 絆がどうのと言ってたけど大したことは無かったようね?」
(見抜かれた! だがそれを認めるわけにはいかない!)
アリシアは自身を鼓舞するように必死に抗う。
「まだ。まだよ! 少し圧したくらいでッ!」
「焦っているのね。可愛いわアリシア。素敵よ」
勝利を確信したエリスの紫の瞳が妖しく輝いた。
「余裕ぶって! その余裕、剥ぎ取ってやるわ!」
「うふふ。それは楽しみね」
エリスは既に分かっていた。時間を引き延ばせば伸ばすほど、自分が有利になることを。
逆にアリシアは追い詰められている。
敢えて時間を伸ばして仲間の援護を待ちながら耐える方法もないわけではない。
だが仲間も苦戦している様子だ。アリシアは決断を迫られていた。
「やるしかないようね」
「あら、何をする気かしら? 怖いわ」
そう言いつつも、エリスは油断なく構えている。
明らかな挑発だ。だがそれでも。
(圧し通す!)
アリシアはそう決意していた。
「私が決めて……。私が創る……」
「風は思いのままに吹く あなたはその音をきいても それがどこから来て どこへ行くかを知らない」
エルフの一般特性とは別に、アリシアには彼女自身の特性がある。
それは彼女自身が心に決めた性質。その風魔法。
「『
詠唱に従い、周囲の大気が激しく逆巻く。
緑風がアリシアを包む!
エリスはそれに対して不敵に微笑んだ。
「それが私に通用しないことは分かっているはずでしょう?」
エリスも負けじと詠唱する。
「私が決めて……。私が創る……」
「天の原 踏み轟かし 鳴る神も 思ふ仲をば 裂くるものかは」
アリシア同様にエリスにもダークエルフの一般特性とは別に、彼女自身の特性がある。
それは彼女自身が心に決めた憧憬。その雷魔法。
「『
大気中に帯電するように紫電がエリスの周囲を走る!
互いに譲れぬ想いを内に秘めて……
緑風と紫電が激突した!
その場に激しい風と雷の嵐が巻き起こる!
激しく鳴り響く雷と風の轟音に会場内に張られた結界さえも振動していた。
観客たちも驚き恐れながらも目が離せない。
力は拮抗している。
だが次第に緑風が押され始めた。
「ぐっ……。うっ……」
アリシアが苦し気に呻く。
対してエリスは勝利を確信した余裕の笑みだ。
そこでふと、アリシアには感じるものがある。
見られている。いや、見てくれている。
はっきりと青の視線を背中に感じた。
ならば。
「格好悪い姿は見せられないわよね!」
アリシアは細剣を構えて紫電へ突き進んだ。
嘆きの鎧が紫電とぶつかり、本当に嘆いているかのような悲鳴をあげた。
それにアリシアの悲鳴が重なる。
「ああぁぁああああああ!」
アリシアは嘆きの鎧の魔法耐性のお陰で、苦しみながらも紫電を抜けていた!
「何っ!? 悪足掻きをッ!」
既にエリスに先ほどの余裕は無い。独自魔法とは諸刃の剣だからだ。
互いにオーラを纏い紫電の剣と緑風の剣がぶつかる!
そして両者が倒れた。
「……やるじゃないの」
そう言って立ったのはエリスだ。傍らにはアリシアが倒れている。
アリシアは既に満身創痍だったのだ。
だがエリスも膝をついて荒い息を繰り返している。すぐには動けそうもない。
「まったく……。意地っ張りね……。私も少し……休憩させてもらうわ」
エリスは結界を張ると膝をついた。
彼女も気づいていた。先ほどからチラチラと視線が来ているのを。青の子だ。
だが、今戦うのはまずい。
大佐が牽制している隙にまずは回復を……
†
ダンを倒したものの、アリシア先輩が倒されてしまった。
だがエリスも動けないようだ。実質、相討ちと言ってもいいだろう。
隙をついてエリスを倒してしまいたいところだったが、大佐がそれを許してくれそうにない。
私たちが対峙した大佐は、軍服のロングコートに革の手袋を嵌めて両手には短剣。
私と師匠の戦い方に似ている。だが格段に練度が違っていた。
何よりこの大佐という男、底が見えない。まるで底なし沼に嵌ってしまったかのような感覚に陥る。
師匠が何度も攻撃を仕掛けては、ツヴェルフさんと交代する。
そこを私が魔法で援護してようやく拮抗のような状態に持ち込んでいた。
だが、どうしてもあしらわれている感覚が抜けない。
「強い……」
私は思わず唸る。
この感覚に近い人を私は一人だけ知っていた。
教授だ。
おそらくツヴェルフさんと師匠も同じ思いだろう。
そんなことを考えてつい聞いてしまう。
「師匠は教授を倒せますか?」
「無理でしょうね。……ソニア。貴方もそう思いますか……?」
「ええ。恐らく教授に近いランクですね」
「困りましたね。八方塞がりとはこのことですか」
ギルドのランクが上がったところで、何か爆発的に力が上がるわけではない。
だがあえて言えば、強い者は強いのだ。強いからこそランクが上なのだ。
それは対峙してみれば分かる。
自らを鍛え上げ、強く成ればランクが上がる。非常にシンプルな結果だ。
私は師匠に回復魔法を使って、傷を回復させる。
だが、疲労だけは治せるものではない。
それでもツヴェルフさんと師匠、そして私と三人がかりで大佐を牽制する。
互いに牽制し合い、時間だけがじりじりと過ぎていく……
私達は膠着状態に陥っていた。
†
散華対蓮華。
激しくも美しい剣戟が交わされる。
それに合わせて漆黒の髪と白銀の髪が舞う。
互いに武器は刀。当然ながら同門。相手の事は知り尽くしている。
回転しながらぶつかり合う喧嘩独楽。
あるいは美しく息の合った
「イヤァァ!」
散華が裂帛の気合とともに斬撃を放つ。
蓮華はそれを刀でいなしながら反撃の一撃を返す。
「ハアアァッ!」
散華はそれを刀で受け止めると刀身から火花が散った。
そうした応酬を何度も繰り返す。
互いに引かない。
お互いの力を確かめるように。
そこには確かな信頼があった。
それは一本の綱を両側から互いに落ちないように渡るのと似ている。
「強くなりましたね散華。どうやら血も覚醒したようですね」
「はい。姉様こそさらに強くなっている様子ですが」
「当然です。まだまだ貴女には負けません」
その言葉は散華にとって嬉しいものだった。それは蓮華にとっても。
「それでこそ。私の目標です」
「ふふ。嬉しいことを。さあ、どうしますか? この通り、姉は強いですよ?」
「参ります!」
そう言って散華は覚悟を決める。
端から本気を出さなければ勝てない相手だと分かっていた。
本気をだしても勝てるかどうかさえ定かではないことは知っている。
だから。
「全力を尽くすのみ!」
散華は詠唱する。
たとえ何度見せたとしても信念が凌駕するとき、真価を発揮するのが独自魔法だ。
そこに一縷の望みを託して……
「私が決めて……。 私が創る……」
「散る華を 何をか恨みむ 世の中に 我が身も共に 在らむものかは」
「『散華』!」
桜の花びらが舞う。
それを見て蓮華は言う。
「良い技ですが……。見せすぎです」
蓮華はこの大会でこの技を既に二度見ている。だが、油断はしない。
その言葉とは裏腹に、冷徹なまでに自身を戒める。
「わたくしが決めて……。 わたくしが創る……」
「雪月花の時 最も君を憶ふ」
「『雪月花』」
雪の華が舞う。
桜の花びらと雪の花びらが衝突した。
それは激しくありながらも華麗だった……
凄まじいまでの剣戟の音が鳴り渡る!
華たちが舞い散る中でそれは繰り広げられている。
一体何合撃ち合っているのだろう、と思うほどの神速の斬撃が繰り返されている!
花びらが舞い落ちる。
そして立っているのは……
蓮華だ。
傍らには散華が倒れていた。満身創痍でありながら、満足げな表情で。
蓮華は荒い息をつきながら言う。
「それでも、わたくしをここまで追い詰めるなんて……。驚きましたよ」
そう言う蓮華も無傷では無かった。所々斬られていた。
だが、そこには妹の成長を喜ぶ姉の姿があった。
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