第4話 パーティーメンバー集合
ツヴェルフさんは教授と今後の話があるので残り、私は教授室を退出した。
退出するとそこには廊下の壁に背を預けて一人の美少女が立っていた。
私を待っていたのだろうか……? いや、きっとそうなのだろう。
「
「ソニア。ソニア・ロンド。話がある。ついて来てくれるな?」
フルネームで呼ばれた。しかも命令調だ。これは怒っているな、と長い付き合いでわかる。
どうやら怒っているから教授室には入らなかった様子だ。
「……うん」
彼女は歩き出した。私はそれ追うようについて行く。
どうやって
彼女の名前は
華咲家と言えば武術の名門だ。そしてこの地、アストリアの領主でもある。現当主はアストリア辺境伯と呼ばれている。つまり彼女は伯爵令嬢だ。
彼女も幼いころから武術を
ロングストレートの黒髪は先祖が極東の国の出身だからだ。落ち着いた赤い瞳は意思の強さを感じさせる。私より長身でスタイルも素晴らしい。しかも巨乳だ。
黒のブラウスに暗赤色のスカートを愛用している。膝上まである戦士用の長ブーツは彼女の脚線美を際立たせていた。
まさに非の打ち所がない美少女である。
そんな彼女が艶のある黒髪を揺らしながら、私の前を歩いている。怒っているせいだろうか、いつもより揺れている気がする。
私はその綺麗な黒髪を見ながら後をついて行く。
流れるような黒髪の揺れを見ているとなんだかボーっとしてきた。
むう、催眠術か? ただの後ろ姿で私を落としにくるとは……
さすが散華ちゃん、やりますね……
揺れる黒髪の先には細くくびれた腰、そしてスカートに包まれたおしり。こちらも怒っているためかぷりぷりしている。その歩みと共にスカートもひらひらと揺れている。
私は必死に抵抗した。そこだけは充分に留意していただきたい!
それはまさに催眠のように私を誘う……
私は手を伸ばして、気づけば何故かそのおしりを
両手でがっちりと!
彼女は途端に立ち止まり、小さく「ひっ……」と悲鳴をあげた。
可愛いな……
あれ? 私は何でおしりをつかんでいるのだろう?
「な・に・を・やっている?」
彼女はとても震えていた。怒りで……
プルプルとした振動がお尻越しに両手へと伝わってくる。
しまった! 火に油を注いでしまった!!
私は焦りながら咄嗟に浮かんだ言葉で言い訳を試みた。
「いや、猫がね。猫じゃらしに反応する理由がわかった気がする」
私の手を振り払い、こちらに振り返った彼女はそれはもうとても冷たい目で。
「もう一度言う。何をやっている?」
「揺れ動いていたんです。ぷりぷりだったのです。けしからん……いえ、すいませんでした」
その怒りの上昇具合に私は言い訳を諦め謝罪した。
「おかしな奴だとは知っていたが……これほどとは……」
うう、知ってたって……
やらかした後だけに反論できない。
その後、目的だった生徒会室で延々と説教を聞くことになったのは言うまでもない。
ただあえて言うならば……良い尻でした。怒られるから言わないけど。
「全く。お前の
「うむ。散華ちゃんはワシが育てた」
「……まだ怒られたいようだな」
「……ごめんなさい。本題をどうぞ」
会長席に座りながら彼女はため息をついた。その姿も美しい。
私はもちろん壁際に立たされてますよ……
「本題は無論、昨日の事だ。何故私を呼ばなかった?」
「それは……散華ちゃん忙しそうだし、巻き込んじゃ悪いかなって……」
「ああ、その通りだ。忙しい。お前のせいでさらに忙しくなった」
「あう……ごめんなさい」
「私がダメだと思ったのなら、せめて先輩を連れて行け」
「でもあの人、どこにいるか分からないし……」
私たちのパーティーメンバーはもう一人いる。エルフの先輩だ。ただ、この先輩は神出鬼没で……
ふう、とまたため息をつく散華ちゃん。
「……今回の事で、我々のパーティーの問題点が浮き彫りになったな」
「問題点?」
「報告、連絡、相談だ」
それを聞いてちょうどいいと思った私は散華ちゃんへ告げる。
「……一つ、報告があります」
「何だ?」
「教授からの推薦で一人パーティーに入ることが決まりました。やったね!」
「またお前は一人で決めて……しかし、教授からの推薦では仕方ないな」
「散華ちゃんならわかってくれると信じてたからさ」
「調子の良い事を……まあ悪い気はしないが」
散華ちゃんはまんざらでもなさそうだ。そこへドアがノックされる音が響いた。
「どうぞ」
「失礼します」
散華ちゃんの許可に入って来たのはツヴェルフさんだ。教授との話が終わったのだろう。
「なるほど。彼女か。我々のパーティーに入るというのは」
「そうなのです。彼女はツヴェルフさん。なんと
「はじめまして。ツヴェルフです。よろしくお願いいたします。サンゲ・ハナサキ」
「ああ。こちらこそよろしく。散華でいい」
「分かりました。サンゲ」
あれー? 驚かないぞ。
「驚かないね?」
「ああ。生徒会長だからな。生徒の事は大まかにだが把握している」
「生徒だったんだ。てっきり教授のメイドさんかと」
こっちが驚いたよ!?
「では先の問題点の改善と、ツヴェルフの歓迎を兼ねて……」
「何でしょう?」
それはきっと前もって考えてあったことなのだろう。
「合宿を行う」
「え、何処で?」
「私の家……と言いたいところだが、いつも同じではつまらないだろう」
つまらないことは無いが、遠慮はしたい。遊びに行くのなら全然かまわないが、合宿となれば話は別だった……
華咲家は武術の名門なだけあって発想が体育会系なのだ。言わずもがな……
良くこれまで耐えたと自分で感心する。
「ソニアの家はどうだ?」
散華ちゃんの何気ないその言葉に、私は宙を舞う蝶が蜘蛛の巣にかかる様を幻視した。
「散華ちゃんのその敢えて虎口に飛び込まんとする精神……私は素敵だと思うの」
「……お前の家は魔窟か何かなのか?」
「だ、大丈夫だよ。私は散華ちゃんにしか手は出さないから」
睨まれた。……相変わらず格好良いな。
「やはり、いつも通り私の家に……」
「サンゲ、頑張ってください」
「うん? ツヴェルフはソニアの家がいいのか?」
ツヴェルフさんが頷いた。何がツヴェルフさんの気を引いたのか分からないが、良い援護だ。
「わかったよ。ではソニア良いか?」
「
あっ。興奮して普段使わない言葉を使ってしまった。
しかし、さすがは幼馴染、慣れたものでスルーでした。ツヴェルフさんは不思議そうにしていたが。
「……ああ、それから先輩は……まあいいか。来たければ来るだろう」
そう散華ちゃんが言うとガタッと扉から音がして。
入って来たのは
「ひどいよ。散華が冷たい! 誘ってよ! あっ、そうじゃなくて」
なぜか先輩は一度、廊下へ戻ってまた入って来た。
「ふふふ、話は全て聞かせてもらった!」
これが言いたかったらしい。台無しだが。
彼女は耳が良い。風の精霊のお陰だそうだが、私は耳が長く尖ってるせいだと思っている。
金髪のベリーショートで身長は散華ちゃんと同じくらいの長身だが、わりとスレンダーな体形だ。とは言っても貧乳というわけではなく、逆に強調されて大きく見える。
エルフは総じて美人だが、彼女も例外ではない。いや、むしろ例外なのでは? と思わせるほどの美人さんだ。
ライトグリーンの上衣に革のベストとスカートを身に着けている。とても似合っていると思う。きっと何を着てもそう思うだろうが……
先輩はツヴェルフさんに向き直ると言った。
「貴方がツヴェルフね。よろしくお願いするわ」
「はい。よろしくお願いします。アリシア・ヴィント」
気さくに話す先輩に対して、丁寧に応対するつヴェルフさん。
ツヴェルフさんは彼女の名前も知っていた。もしかしたら散華ちゃんより生徒に詳しいかもしれない。
これでパーティーメンバーは揃った。今日一人入ったので四人だ。
ダンジョンなどでの不寝番や見張りを考えると決して多くはない。正直三人はきつかった。やっとらしくなったとは言えるかもしれない。
家のクロを連れていくことも考えた事があるが、その場合店を閉めなくてはならないのでそれは困る。
もう一人、私の剣の師匠にも声をかけてはいるのだが、なかなか首を縦に振ってくれない。
ああ、そう言えばグランさんはどうだろうか? とそんなことを思っていると。
「ああ、そうそう、ソニア。昨日は大変だったそうね? 大丈夫? 良ければお姉さんに話してみなさい」
そうアリシア先輩が言った。
皆に心配かけてしまっている。私は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
あえて触れずにいたが、わかってはいた。説明は必要だろう……私は意を決する。
「心配をかけてすみません。……分かりました昨日の事を話します」
私は皆に昨日あったことを話した。上手く話せたかどうかは分からない。
傷をさらすかのような痛みに耐えながら話し終えると……
「なるほどね。それは確かに事故にあったようなものよね……死んだ子達には悪いけどソニアは気にするべきじゃないわ」
「不可避の事象であったと思われます」
「我々も気をつけねばならんな。しかしグランという男なかなか見どころがある」
アリシア先輩、ツヴェルフさん、散華ちゃんと皆が感想を述べた。
そこからは私を気遣い、慰めようとしてくれている意思が伝わってくる。
そのおかげなのか……私も
凹んでいては亡くなった者達にも顔向けができない。自身に乗り越えなくてはならないと言い聞かせる。
「おや、散華が男を褒めるなんて珍しいね」
「私は正当な評価を下したいだけだ」
アリシア先輩は驚いた様子だったが、散華ちゃんは平然と言ってのけた。
「そうです! 散華ちゃんは私のものです!」
私が加わるようにそう言うと散華ちゃんには「何言ってんだこいつ」って目でみられた。
最近は、それも気持ち良い気がしている!
その一方で。
「まあ、それはそれでアリだと思うの」
さすがアリシア先輩。懐の深さを感じる。
「私の中の闇の
私は身振りを交えて皆に伝わるように詩的に? 表現してみた。
「ごめんなさい。やっぱり理解できなかったわ」
あれー?
「サンゲ。ソニアは本当に大丈夫なのですか?」
「うむ。最初は驚くだろうが、これで正常なのだ」
ツヴェルフさんは戸惑った様子だったが……。
やはり散華ちゃんは私の事を分かっている。
「これが愛か……」
私は一人呟くのだった。
「ねえ、本当に大丈夫なのよね?」
「た、たぶん?」
アリシア先輩の問いに散華ちゃんは自信なさげに答えていた。
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