第六葉 言葉を手放さないということ

 ところで、批判をするにも研究をするにも、当然ですが言葉を使いますね。でも、言葉って何でしょう? 人がこの世界の美しさに圧倒され胸を打たれる理由は、そこに宇宙の記号が満ちあふれているから。大自然にはさまざまな記号がありますが、ここではひとまず人が発する「言葉」という記号について考えましょう。

 わたしたちが普段使っている言葉は、むかし誰かが作った言葉です。言葉は人が作ります。誰かが誰かに何かを伝えようとして、人が言葉を作り、言葉を交わします。「もしもしっ」てね・・・・・・。

 でも、言葉のなかには、悲しい運命の言葉もあります。人から愛されなかった言葉、人から捨てられた言葉・・・・・・。人から離れた言葉はいのちを失い、砂漠の砂のように積み重なって、ときに人をうずめて身動きができなくしたり、風とともに打ちつけて目の前を見えなくしたり、だましたり傷つけたりすることがあります。

 そんな悲しい言葉を増やさないために、あなたの言葉はいつもあなたといっしょにいるようにしましょう。言葉を大切にするということは、人を大切にするということ。人と言葉はいつもいっしょ。あなたがあなたであるということは、あなたの言葉があなたの言葉であるということ。

 言葉は人がつくりますが、言葉が人をつくることもあります。強い言葉はあなたを強くします。美しい言葉はあなたを美しくします。正しい言葉はあなたを正しくします。

 もしも万が一、あなたが闘わなければならなくなったとき、闘って死ぬか、闘わずに死ぬかの二つに一つしか選べなくなったとき、あなたはあなたの言葉で闘わなければなりません。自分が自分であるために言葉を発しなければなりません。だから、あなたはいつも言葉を磨かなければならない。あなたといつもいっしょにいる言葉は、きっとあなたを助けてくれます。

 人は言葉から離れては生きられません。逆に、言葉も人から離れては生きられません。人と言葉はともに一体となってはじめて、人は人となり、言葉は言葉となります。

 さぁ、おはなしの前のおはなしはこのくらいにして、ここからいよいよおはなしのなかへと入っていきましょう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る