残寿命のただしい使いみち

ちびまるフォイ

残寿命を残したのならどう使うか

「うぃーす。そこ足元気をつけろよ。だいぶ畳傷んでるから」

「はい」


先輩と自殺した独居男性の家を掃除を終えると荷物を片付けて供養をした。

ふと、見ると先輩の手元には見慣れない荷物があった。


「先輩それは?」


「これか? ああ、見たことなかったのか。

 これは残寿命だよ。自殺者にはよくあるんだ」


特殊清掃業として死んだ人の部屋を掃除する仕事をしていると、

自殺で死んだ人には本来生きるべきはずだった時間が残寿命としてその場に残るらしい。


「残しておいても迷惑だってことで俺たち特殊清掃業者が回収するんだよ」


「回収してどうするんですか?」

「そりゃ捨てるだろ」


「えっ。もったいなくないですか? 寿命ですよ?」


「でも知らねぇやつの寿命だぞ?

 お前は客の食べかけの皿をレストランで横流しされたらどうよ?」


「うーーん……時と場合によります」

「それだいぶ極限環境を想像してっだろ」


先輩にこづかれたが納得はできなかった。


「先輩、これ捨てるなら俺がもらってもいいですか?」


「別にいいけど何に使うんだ?」

「まだなにも……」


残寿命を持ち帰っても使いみちは思いつかなかった。

とりあえず、本人以外も延命できるよう加工だけは行った。


最初は自分に使って寿命を伸ばそうかとも思ったが、

不老不死になった主人公が天涯孤独になる映画を見て怖くなった。


とりあえず病院で余命わずかな人に寿命を分け与えることにした。


「い、いいんですか? これでもう少し生きられるんですか?」


「はい。残寿命を追加しましたから」


「ありがとう存じます。ありがとう存じます。

 どうかこれはほんのお気持ちです」


「これ……お金じゃないですか。こんなの受け取れませんよ」


「いえいえ、もらってください。

 こうでもしないと私の中でこの親切に報いることができません」


押し切られる形で金一封を手に入れてしまった。

もらった金は残寿命を残した遺族へと渡そうとしたものの拒否された。


「お金を払って特殊清掃をお願いして、

 その後でまたお金をもらうなんてできません」


「し、失礼しました」


まるで命を金で忘れさせるかのような風に取られてしまった。

使いみちも決まらないまま封筒は放置され、また自殺物件を訪れる度に俺は寿命を回収して回った。


まるでコンビニのバイトが廃棄弁当を配給しているような気分だった。


「あ! あんたが寿命を伸ばしてくれる人か!」

「お前さんが寿命を伸ばしてくれるじゃろう?」

「金を出せば寿命を伸ばしてくれる魔法の人はあんたか!」


病院に訪れると俺の噂は一気に広まっており、

しかも悪いことに金をもらえば寿命を伸ばしてくれるということになっていた。


「いや、あのお金はもらいましたけど、そっちが目的じゃなくて……」


「100万ある! 寿命を買わせてくれ!」

「なにを! だったら200万だそう!」

「ええい、わしは遺産のすべてを出すぞ!」


「わかりました! わかりましたから落ち着いて!」


持っていた寿命は希望者に平等に配分して渡した。


「ちぇっ……たった1年かよ」


去り際に愚痴をつぶやく人もいた。

それでも俺はせめて人助けになれればと病院を訪れた。


奇妙な副業になってしまってから数日。

先輩から電話がかかってきた。


『休日に悪いな。ちょっと仕事だ』

「はい」


仕事柄、休日でも遺体処理の依頼は飛び込んでくる。

現場の部屋につくと生々しい現場が残されていた。


「やりましょうか先輩」

「……その前にちょっといいか?」

「はい?」


「最近、なんかやけに仕事増えてるんだよ」


「……そういえば、そうですね。この時期でこんなに増えないですよね。

 なのに今年は休日にバンバン依頼が来ていますし」


「……お前じゃないのか?」

「え?」


「聞いたぞ。お前、廃棄される残寿命を売ってるそうじゃないか。

 それで金を集めるためにこうして人を――」


先輩の真意がわかった。


「ちょ、ちょっと待ってください!

 俺が殺して残寿命を回収しているって言ってるんですか!?」


「時期的にこんな急に増えるほうがおかしいんだよ!」


「お金もらってるっていっても初回だけですよ!?

 それにお金も申し訳なくて使ってないですし!

 それに、残寿命で稼ぐくらいだったら現金目当てで殺すでしょう!?」


「……たしかに。人を殺して残寿命を回収してってのは回りくどいな」


「でしょう? わざわざ仕事を自分で増やして休日を潰すわけないでしょう。

 それに残寿命が回収できるのは自殺だけ。

 他殺や事故じゃ残寿命が傷ついて加工なんてできません」


「お前じゃないのか」

「当たり前じゃないですか」


すぐに答えたが、ふと考えると合点がいく。


「……でも先輩の言いたいことわかります」


寿命を金で変えるとなれば誰だって必死になる。


その寿命の供給元が死体の残寿命だと知ったからには

まだ寿命が残っている人間を死体に買えてしまえば残寿命の商品が増える。


金目的ではなく寿命目的の人がいるのだろう。


「先輩、俺もう残寿命回収するの止めときます……」

「そのほうがいい」


今回は残寿命を回収せずに新しめの遺体現場を清掃した。

残寿命を集めなくなったことで周りの人々は激怒した。


「おい! どうして残寿命持ってないんだよ!」

「こっちは明日にも死ぬ命かもしれないんだぞ!」


「もう残寿命を渡すのは止めたんです!」


「ウソつけ! 本当は一部の人間にだけ高値で売ってるんだろう!」

「本当は持っていて値段を吊り上げるために出し惜しみしているな!?」


「そんなわけないでしょ!? それにお金なんて最初から……」


「残寿命がないならお前が死んで寿命をよこせ!!」


あれだけすがっていた人たちはまるで暴徒のようになってしまった。

残寿命を渡さなければ本当に自分が殺されてしまうかもしれない。


「わ、わかりました! 寿命をあげますよ!」


「おお本当か!」

「最初から素直に売ればよかったんだ」

「それでどれだけ寿命がもらえるんだ?」


「いいですか、みなさん。確かに寿命は売りますが簡単には売りません」


「そうだと思った」

「金ならいくらでも用意がある」


「実は……ある条件をクリアしなければ

 俺は寿命を売ることができなくなってしまったのです」


「条件?」「どうすればいいんだ?」


俺は全員に聞こえるように答えた。



「この国の自殺者がゼロになったとき、

 俺はみなさんに残寿命をすべてお譲りしましょう!!」



全員が一致団結すると自殺撲滅のため一心不乱に働いた。

誰ひとりとして残寿命の源を知ることなく……。

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