第45話 願いの向こうにあるもの (2)
前書き
フォロー頂きました。ありがとうございます!
一昨日、昨日と🖤を付けてくださった方々、お礼が遅くなりました。ありがとうございます!
そういう訳で、本日二話更新です。
◇
刺されたのだ、そう思った時には身体がゆっくり傾いていた。激しい痛みに立っていられなくなる私を麗が優しく抱き留める。
「セイ、あの先まで歩ける?」
鳥居脇の芝生を指差す麗に頷いて、支えてもらいながら移動すると、仰向けに転がった。辺りが暗いのと、花火に目を奪われているお陰で、私達に気を留める人はいない。ナイフが刺さった場所に手を当てると、直ぐに生温かいぬるりとした感触が伝わる。脈打つ度に身体の力が抜けていく私を優しく見つめたままの麗に、力を振り絞って口を開くと、察したらしく顔を近づけてくれた。
「……夕貴、に…………会い、たい…………」
「ようやく、言えたわね。全く、頑固なんだから」
「呼んでくるわ。それまで待てそう?」
「…………」
目だけで頷くと、麗が穏やかに笑い、私の頬に顔を寄せてキスした。
「さよなら、セイ」
人混みに消える麗を見送ってから、これ以上目を開けていられなくて瞼を閉じる。少しずつ重くなっていく身体は息をするのが辛くて、頭がくらくらする。いっそのこと意識を手放してしまえばどれ程楽だろう。だけど………
どのくらい待ったのか、あるいは待っていなかったのか、私の傍に人の気配を感じた。
「…………」
「…………」
ゆっくり目を開けると、視線が合う。走ってきたのだろうか、肩で息をして、汗だくの夕貴が傍にいた。顔を歪めた夕貴の背後で大きな花火が空を飾っている。その光景に見とれながら小さく笑うと、すぐ傍に座り込んだ夕貴が私の手に触れる。小刻みに震える細い指に自分の指を絡めてぎゅっと握ると、愛しさが胸に広がった。
そうか、私、夕貴が愛しかったんだ───
いつからなんて分からない。あれほど望んだ良子さんを想うよりも、ずっと、ずっと、夕貴が好きだった。ようやく会えた夕貴が、傍にいてくれる夕貴が、愛しくて、愛しくてたまらない。
「セイ……私、セイが好きだよ」
「!」
「お母さんを好きでいてくれたセイが、私をずっと前から支えてくれたセイが………誰よりも好き」
私の容態を知ってか、ぽろぽろと涙をこぼしながら必死に伝えてくれる言葉が思いがけないもので、無性に嬉しい。私の手を両手で握りしめる夕貴を引き寄せると、朦朧とし出す視界に少しでも映していたくて見つめ合った。周りの喧騒も花火の爆音も何も聞こえない。
ただ、夕貴が傍にいてくれる。
人生の最後を夕貴が付き添ってくれるなんて、私はなんて幸せなんだろう。
「私、も…………」
だから、せめて、最後に伝えたい。ようやく自覚したこの気持ちを。今なら、やっと素直に言えるから──
「私も……好きだよ…………夕貴」
くしゃり、と歪んだ泣き笑いの顔の夕貴がぼやけていく。
ああ、もう少しだけ、一緒に過ごせたなら……
「わ、私達、両想いだったんだよ。セイ!
だから……だからっ、私の初恋をこのまま終わらせないでよっ!!」
その声が耳に届いたのが記憶の最後だった。
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