第25話 ある男の受難 (3)

前書き


子供の頃からゲームは好きでしたが、エンディングまでたどり着いたのは片手で数えても余ります。アクション、RPG、シミュレーション……時間が取れないのも理由の一つですが、基本的に苦手です。

つい先日、ジャンルがGLのゲームがあることを知りました。イラストも綺麗で結構有名なゲームらしいです。(随分前に発売されていた物ですが……)

現在、挑戦しようか悩み中です。



「…………!?」


 がばり、と起きると自分の部屋に転がっていた。一瞬夢かと思ったけど、手足の痛みが夢では無いことを物語っている。


「はぁっ……」


 生きていることの喜びを噛み締めて思わずため息をついた。どうやら本当に殺す気はなかったらしく、手を見ると爪があった場所は血がこびりついている。あれからどのくらい時間が経ったのだろう。ポケットの中はこの部屋を出たときと変わらず、スマホもナイフも入っていた。


「もう、昼か……」


 じんじん痛む身体で起き上がると、部屋をチェックする。特に変わった様子は見られないが、あの女が俺を運び込んだのだろうか。見慣れぬ物がないか入念にチェックしてから、服を着替えて傷の手当てをすることにした。


「くそっ!!」


 痛みに顔をしかめながら、消毒をする。

あいつは人じゃない、まるで感情の無い表情を思い出すと、ぶるりと震えた。


 立野に近づかないよう無理矢理約束させられたが、そんな事関係無い。学校に行けば会えるし、スマホにもこの部屋にも彼女のデータが幾つも取ってある。ネットでネタを作ってばら蒔いても構わないだろう、近づかなくても彼女と触れあう方法何で幾つも思いつくものだ。片足を引きずりながら、パソコンの前に座り、パスワードを打ち込んでから画面を開くと、フォルダをクリックした。


「……な、何だ、これ!?」


 立野の写真が入っていたフォルダの中身が見ず知らずの写真に変わっていた。画面を拡大して写真を見ると思わず絶句する。


「これ……俺!?」


 どの写真をクリックしても自分の物が何枚も現れる。部屋の中、学校、私服、中には見覚え無い際どい合成写真もある。


「ど、どういう事だ……」


 他のフォルダを見ても同様の物ばかりで立野の写真は一枚もない。あの女の仕業に違いなくて、悔しさのあまり机を叩きつける。スマホをチェックすると、こちらのデータも全て書き換えられていた。呆然としていると、スマホが小さく震え、メッセージの受信を知らせた。


「きゅっ、……900件!?」


 アプリの受信箱の数値に驚きながらもメッセージを開くと、差出人は見覚え無い名前だった。“こんにちは”で始まる文面に不審を覚え、無視しようとすると再びメッセージが届く。


「何だよっ!!」


 ブロックしてスマホをベッド投げると、間を置かずに振動する。スマホを無視してパソコンに向き合うと、先程の画面からいつの間にか切り替わっていて、画面に写っているのは俺の部屋だった。


「っ!?」


 慌てて天井を見上げ、それらしい場所を探すもののカメラらしき物は見つからない。誰に見られているか分からない恐怖に思わず部屋を飛び出す。


「こ、こんなことしやがって……

絶対復讐してやる!!」


 怒りを募らせ痛みに耐えながら居間のソファーに移動すると、テーブルに白い封筒が置いてあった。“山本一様”と書かれた女性らしい筆跡からあの女が書いたものだとピンときて、中の便箋を取り出した。


『あなたがきちんと約束を守って貰うにはどうすれば良いか考えた末、立野夕貴と同じような体験をしてもらえば良いのではないかと思いつきました。

 私の知り合いのストーカーにあなたの写真を見せたところ、是非ともお近づきになりたいということだったので、一言伝えておきます。彼はその道のプロなので、写真一枚であなたの住所をそろそろ見つけ出すのではないでしょうか。

 顔も彼好みで、会えるのをとても楽しみにしていると言っていました。

 命までは取らないらしいので、頑張って下さい』


「くそったれが!!!」


 後半の文章に悪寒を覚え、手紙を破り捨て叩きつけると、急いで部屋に戻った。男の相手なんて冗談じゃない。パソコンもスマホも電源を落としてこの家を出ていこう。ネットさえ繋がらなければ、見つかる可能性はぐっと低くなる。


 あの女がふざけて手紙を書いているとは思えなかった。財布の中身を確認し、着替えをバックに詰めていると、スマホが見知らぬ番号を表示する。布団の下に押し込んでバックを背負い、足を引きずりながら玄関に向かう。指先が痛んで靴が履けそうになく、片足にサンダルを差し込むと、立ち上がってドアノブに手を掛ける。



 ピンポーン



「!?」


 チャイムが玄関に響き渡り、びくっと身体が跳ねる。ドアノブは鍵が掛かったままだ。恐る恐るレンズ越しに外を窺うと、柔和な笑みをたたえた若い男がドアの前に立っている。外からこちらは見えないはずなのに、何故か目が合ってにこりと微笑まれた。


「こんにちは」


「ひぃっ!?」


 後退りすると段差に躓き、尻餅をついた。ドアの向こうから嬉しそうな声が聞こえてくる。


「怪しい者じゃないよ。

 良かったらここを開けてくれないかい」


「っ、……っ!」


 俺は知っている、一見無害そうに話しかけてくる人間ほど中身がヤバい奴がいるってことを。脳裏に昨夜の女が思い浮かんだ。


「一君、そこにいるんだろう?」


「……っ!!」


 手で口を押さえて声が漏れない様にする。落ち着け、キッチンの窓から抜け出せば大丈夫だ。息を殺して後退りすると静かにキッチンに向かって立ち上がろうとした。



 ガチャリ



 鍵が開く音が聞こえて、思わず振り返る。鍵を掛けていたはずのドアを開けて、笑顔の男がゆっくり入ってきた。


「やぁ、やっと会えたね。一君」


「何だよ!?お前っ!?」


「僕の事が知りたいのかい?

 それなら、是非話をしようじゃないか。大丈夫、手荒な真似なんてしないよ」


「来るなっ!!来るなぁっ!!!」


 尻餅をつきながら後ずさるも、壁に身体をぶつけてこれ以上下がれない。身体を嘗め回すような視線に恐怖を覚え、ガタガタと震えていると、すぐ傍まで近づいた男が肩の方に手を伸ばす。


 バチッ


 電流を感じたと思った途端、目の前が真っ暗になっていった。

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