第24話 ある男の受難 (2)

前書き


この回には残酷な表現があります。

苦手な方はご注意下さい。



暑い日が続いています。皆さんいかがお過ごしでしょうか?


私は、燃えに燃えております!!

何てったって、フォローをしてくださる方が増えているのですから!!


うお~! 燃えるぜ~い!!

ありがとーございまーす!(*´∇`*)

今日も二話更新でーす!!



ぼんやりと沈んだ意識が浮かび上がる。それと同時に後頭部がずきり、と痛んだ。


「…………痛ってぇ」


 自分の呟いた言葉にはっとして顔を上げると、彼女の部屋ではなく、がらんとした建物の中にいる。薄暗い中で目を凝らすと、鉄材やブロックが置かれていて、ここが資材置き場か倉庫の中らしい事が分かった。


「!?」


 いつの間にか椅子に座らされた姿勢でくくりつけられている自分に気がつく。手足も椅子の脚と手すりに括られていて、身動きが出来ない。


「何だよ!!くそっ!!」


 身体を捻って暴れても、椅子が床に打ち付けられていてびくともしない。喚いて助けを求めても、辺りに人の気配すら感じられない。誰が、何故、恐怖と疑問が浮かぶ中で、何か音が聞こえてくる。


「だっ、誰だっ!!」


 暗闇からゆっくりと歩いてきたのは女だった。この場に似つかわない黒いスーツ姿の女はピンヒールを履いているらしく、一歩進む度コツ、コツと床に音が響く。俺の目の前まで来る女が、無表情で見下ろす顔に、見覚えあることに気がついた。


「お、お前っ、立野の傍にいる女だな!!」


 射殺さんばかりに女を睨み付けても、平然としていることに腹立だしさが募る。


「お前が、俺をこんな目に合わせたのか!!

何のつもりだ、離せ!!」


「山本一、〇〇高校三年5組、住所は××町××番地。合ってるかしら?」


「なっ……!!」


 いきなり名前と住所を告げられて、思わず息をのむ。どうしてこいつは俺の事を知っているんだ?


「お望みなら、あなたが三日前食べた夕食のメニューまで当ててあげるわよ」


「ふざけるな!!お前、これは犯罪だぞ!分かってるのか!!」


「ええ、分かっているわよ。あなたが立野夕貴に付きまとっていたことも、隠しカメラや盗聴器を忍ばせていたこともね。

私は警察に駆け込まれても構わないけれども、あなたはどうかしら?」


「な、何の証拠があるっていうんだよ!」


「証拠なんて幾らでも出てくるわよ。パソコンのフォルダ、スマホのデータ、盗聴の記録、ついでにあなたが持っているナイフとかね」


「…………っ!!」


 苛立ち紛れにガタガタと椅子に縛られたまま暴れるが、びくともしない。身体を動かすとポケットには隠したナイフの感触が残っている。片手だけでいい!片手さえ動かせれば、この女をメッタ刺しにしてやるのに……!

ぎりり、と奥歯を噛みしめながら睨み付けるも、不気味なほどその表情は変わらない。


「俺と立野の邪魔ばかりしやがって……」


「あなたが一方的につきまとっているだけじゃない、自覚ないの?」


「立野は恥ずかしがっているだけだ!お前には関係無い!!」


「本当、ストーカーって面倒だわ……」


「!?」


 やれやれといった感じでため息をつく女を前に、自分が現在逃げ場の無い状況置かれていることに気がついて、思わず血の気が引く。

…………もしかして、俺、殺される?


「殺しはしないわよ」


 俺の心を読んだかの様に女は言った。


「殺すのは簡単なの。ただ、後片付けが面倒だから、止めとくわ」


「……じゃあ、何、すんだよ」


 殺さない、と聞いて少しだけ安堵するものの、震える声を誤魔化しながら訊ねる。いきなり「やっぱり殺す」と言われても驚かないくらい、つかみどころの無い女の態度が怖かった。


「子供相手に事を荒立てるつもりもないし、ゆっくり話をしましょう」


 奥の資材置き場から小さなコンテナを持ってくると、俺の目の前に置き、椅子代わりに腰かける。30センチも離れていない距離でこれ見よがしに脚を組む姿に、手出し出来ない事が腹立たしい。


「私がお願いしたいのは一つだけ。

 立野夕貴に二度と関わらないこと。

 簡単でしょう?」


「ふざけんなよ!

 そんな事出来るかよ!!」


「思春期の恋愛に口を出すつもりはないけど、盗聴器にカメラはやりすぎでしょう。しかも寝込みを襲うなんて最低ね」


「うるさい!!立野の全ては俺のモノだ!

お前なんかに何が分かる!!」


「分からなくて結構よ」


 ぞっとする平坦な口調と、いつの間にか手に握られていた小さなナイフを見て、思わず息をのむ。

やっぱり殺すつもりじゃないか……!恐怖で視線が離せなくなった俺を気にすることなく、女は俺の足元にナイフを当てた。迫り来るであろう痛みに思わず目を瞑ると、びりっと音がして素肌が外気に晒される感覚があった。そろそろと視線を下げると、いつの間にか靴下とズボンの膝から下を切り取られ、裸足になっている。


「大声で叫ばれるとうるさいから、なるべく静かにね」


「ふがっ!?」


 靴下の切れ端を丸めて、口の中に押し込まれると、俺が準備していたロープで吐き出さないように猿ぐつわをさせられた。何をされるのか分からない恐怖が身体を支配する。


「子供相手だし、そんなに大した事はしないわよ」


 そう告げるとナイフをポケットに入れ、代わりに小さなペンチを取り出した。そのまま細い先端を足の親指の先に当てて、ちらりと俺を見る。まさか、という思いと、信じたくない行動の先に待ち受ける恐怖に、思わず暴れだすが、縛られた身体は動かせなかった。そんな俺をじっくり見た後で、女が爪を挟んだまま思い切りペンチを引っ張った。


「っ!!!!!!」


「まず一枚目」


 爪を一気に剥がされ、右の親指に激しい痛みが襲う。痛みに絶叫したが、猿ぐつわのせいで声にならないうめき声が漏れただけだった。


「次は人差し指」


「!?、!!!!!!!!っ」


「中指」


「!!!!!!!!!!」


「とりあえず、三枚……」


 休む間もなく次々痛みが襲い、声を掛けられて、ようやく女が手を休めた。怖くて確認出来ないが、地面と右足の間をヌルッとした感触があるのは俺の血だろうか。涙とよだれを流しながら身悶えするしか出来ない自分に、これなら一思いに刺し殺された方が楽だったんじゃないかとさえ思ってしまう。


「うん、もう少しいけそうね」


「ううッ!!、ううッ!!!」


 声を上げるものの気にもしない様子に、怖くて必死に話を聞いてもらうようにアピールする。

この女、イカれてる……!!

背筋を悪寒が駆け抜けた。


「足ばかりじゃ良く見えなかったわね。右手は食事をする時に不便だから、今度は左手でやってみようか」


「うううッ!!」


 見せつけるようにペンチを目の前から左手にゆっくり当てる。ぎゅっと丸めた指に手を添えてほどいていくのを必死に抵抗したが、凄い力で押さえ込まれ、そっとペンチが指先に当てられた感触があった。


「一気に剥がすのが嫌なら、ゆっくりしてみる?」


「うッ!うううう!!!!」


 じわりじわりと指先が引っ張られ、先程以上の痛みに苦しむ。いっそのこと一気にしてくれ、と叫びたくなるくらいの仕打ちに、何も考えることが出来ない。

 ぐったりした俺を顔色一つ変えずに見下ろす女が、猿ぐつわを外す。口の中の靴下をやっとの思いで吐き出すと、ゼイゼイと息をついた。


「それじゃあ、もう一度聞くわね。

 立野夕貴に関わらないことを約束してくれる?」


「……はぁっ、はぁ……、……」


「うーん、まだ無理そうね……」


 答える気力もない俺を、否定していると思ったらしく、再び手を掴まれる。


「すっ、する!!するから!!だからっ、

 っ!?ぎゃぁっっっっ!!!!」


 返事が気に入らなかったのか、親指の爪を剥がされ、叫び声を上げた。


「します……、もう、二度と、近づきません……!!

 ………だから、許して、下さい……」


「分かったわ」


 声も絶え絶えに許しを乞うと、ようやくペンチを置いてくれた。安堵感を覚えるとズボンがぐっしょり濡れていることに気がつく。


「帰りもきちんと送ってあげるから安心しなさい」


 その言葉と共に、首の後ろに痛みが走り、再び意識が落ちていった。

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