第22話 孤独な心 (15) ~夕貴~
前書き
フォロー & ★評価ありがとうございます!!
つい10分前に気がついて、慌てて前書きを書き直した次第です (笑)
o(^-^o)(o^-^)o o(^-^o)(o^-^)o o(^-^o)(o^-^)o
嬉しいでーす!!
今日の更新は二話です!
それではどうぞ♪
◇
「おはよう、京子」
「おはよう」
いつもと変わらない生活なのに少しだけ緊張しているのは、今朝セイに言われた事の為だろう。セイは詳しく教えてくれなかったが、盗聴器が学校に仕掛けられている可能性が高いらしい。知らず知らずのうちにずっと日常を観察されていたとなれば気持ち悪いことこの上ない。気にしないようにと言われているがやはり落ち着かなくて、お昼に京子と差し向かいで座ると、バックから弁当箱を取り出す。
「あれ? 夕貴、久しぶりにお弁当だね」
「うん、今日は従姉妹の分も作ったから」
お弁当箱を渡した時のセイの驚いた顔が思い浮かんだ。サプライズのつもりはなかったのだが、嬉しそうにお弁当を受けとる彼女を見たら作って良かったと思う。
「従姉妹って、あの時、迎えに来ていた人でしょう」
「京子、セイと会ったの?」
「うん、夕貴の鞄を保健室に持っていったときにね。セイさんって言うんだ、凄い美人ね」
どうやって伝えようか悩んでいた私は、好機とばかりに京子に打ち明けることにした。
「私、近々セイと一緒に住むかもしれないの」
「えっ、そうなの?」
「うん、お互い独り暮らしだし、セイが何かと心配してくれたから」
「確かに、誰かが一緒なら安心だよね。夕貴が引っ越すの?」
「そのつもり。セイの家の方がセキュリティもしっかりしてるし、私の荷物だけ運べば良いから大して時間もかからないと思う」
「それは良かったじゃない、夕貴」
「うん」
私を心配して笑ってくれる京子に申し訳なさを感じるものの、セイの話題を振ってくれた事に密かに感謝しながら食事を取った。
放課後、スマホをチェックするとセイから一言メッセージが入っている。彼女は返信なんて気にもしないだろうけど、何となくセイと繋がっていたくてスタンプを送った。たったそれだけの事なのにセイが見たらと考えると、途端に自分のしたことが恥ずかしくなってスマホを急いでしまった。
学校から戻り部屋の電気をつけると、夕食の準備に取りかかる。慣れない台所と慣れない調理道具に勝手の悪さを感じつつも、二人分の食事を作ることが楽しかった。セイは「無理しなくて良いのよ」と言っていたが、自分の食事を作るついでなので手間もかからない。私が彼女にしてあげれることが嬉しくて、自分一人で食べる時よりも丁寧に調理した。
セイが帰ってくるのは遅くて、11時を過ぎても何の連絡もなかった。待っておくつもりもないが、夕食をとりお風呂に入ると、することもなくてテーブルに教科書とノートを広げて課題に取りかかる。問題を解き終わったところで大きく腕を伸ばして、腕を回す。見回す室内には部屋の片隅に私の荷物が積んであるだけのテレビすらない空っぽの部屋だった。彼女が食事を楽しむ事がなかったように、きっとこの部屋は寝る為だけに使っていたのだろう。
「ただいま」
ドアの開く音が聞こえてセイが部屋に入ってくる。台所に置かれた夕食を見たらしく「おぉ……炊き込みご飯だ」と言う声が聞こえて、ただそれだけで、嬉しくなった。
「おかえり」
「お弁当美味しかったわ、ありがとね。夕貴」
「うん………」
セイの言葉に照れくささが勝って、上手く返事が出来ない。そんな私の態度を気にする風でもない彼女に、申し訳なさが募る。本当はもっと素直になりたいのに…………
黙ったままのセイに気がつき顔を上げると、テーブルの前でスマホを片手に酷く真剣な表情を浮かべている。ぱっと顔を上げ、メモに何かを書くと私のすぐ隣に座った。
『盗聴されている可能性あり。静かに』
「なっ、むぐっ!?」
思わず声を上げそうになった私の口をとっさにセイが覆う。落ち着きなさい、と目だけで諭されて、こくこく頷くとゆっくり手が離された。
『調べても良い?』
鞄、バックを指差すセイに頷くと、セイが一つ一つ丁寧に開けていく。物音をたてないように素早く確認していくセイの表情は、私の知らない彼女だった。やがてテーブルに置かれた筆箱の中の一本のペンに目を留めると、何度か手触りを確認する。
あんなペン、昨日は入っていなかった様な…………?
静かにそれだけをテーブルに置いて、再びスマホに何かを打ち込んだ。私と視線が合うと、セイが小さく微笑む。まるで、心配しないで、と言っているようで身体の強ばりが少しだけ解けた。
『話を合わせて』
「…………」
こくり、と返事をする。
「夕貴、引っ越しの件なんだけど、なるべく早くしようと思うの。その方があなたも都合が良いでしょう」
「うん…………」
盗聴しているストーカーに聞かせるために、今朝セイが指示した嘘なのに、少しだけそれを望んでいる自分がいる。
「今週末までには何とかするから。ただね、明後日、一晩だけ家に戻ってくれる?」
セイが片目を瞑った。これはきっと「イエス」の返事を求めている………
「分かった………」
「ごめんね。彼が泊まる約束していたから。
あ、彼には明後日事情を話して、次からは他の場所に行くから、安心して?」
「……………」
何と答えれば良いのか分からずに黙ったが、セイは気にすることなくペンを筆箱にしまうと、スマホを見ている。やがて鞄の奥底に入れて玄関近くに置くと「もう良いわよ」といつものセイに戻った。
「上手くいくと良いんだけど………」
一人呟くセイは、どうやらずっと神山さんと連絡をとっていたらしい。ふっと、セイと視線が合う。
「大丈夫よ、夕貴。
そんなに心配しないで」
「………セイ」
「ん?」
「私に何か手伝えることはない?」
少し目を細めて私を見るセイを見つめ返す。やがて、セイの雰囲気が和らいだ。
「そうね。一つだけ、お願いして良いかしら?」
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