第10話 孤独な心 (3) ~夕貴~

前書き


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ありがとうございます\(^o^)/


「なろう」にも投稿していますが (投稿の関係上、少し早目です) 数多くの小説の中から、趣味全開のこの作品を見つけて読んでくださる方には感謝しかありません。その上、フォローまでしてくださるのは本当に有難い事だと思っています。

感謝の気持ちを投稿に変えまして、本日は二話更新します。楽しんで下さいね!


🖤をつけて下さった方にもこの場を借りてお礼申します。

作者は「カクヨム」サイトを開く度、通知マークの赤い点に小躍りしながら喜んでいますヽ( ̄▽ ̄)ノ



学校から帰ってきた後早々と家事を済ませて課題を終えると、頃合いを見計らって自転車に乗り込んだ。少し肌寒い夜気の中、ペダルを漕いで町外れのホームセンターに向かう。


夜の静けさの中、一際明るい店内に入ると眩しさに思わず眼を細めた。食料品から電化製品まで揃っている大型のホームセンターは未だ買い物客で溢れていた。バックヤードらしき場所は従業員専用で立ち入ることが出来ず、店内を一巡して彼女を探すが安西セイの姿は見当たらなかった。私は一体何をしているのだろう、ふと思い浮かんだ疑問に思わず立ち止まると、途端に恥ずかしくなって出口を目指した。


「あ……」


 ジーンズと黒いエプロン姿の彼女がカートを引いて私の前に立っていた。胸にプレートを着けて軍手をはめている。


「こんな時間にどうしたの?」


 仕事柄、髪を束ねないと邪魔なのだろう。後ろで一つに纏めた姿は普段の彼女よりずっと幼い印象を受ける。彼女の格好も相まって大学生と言われたら信じてしまいそうだった。あまりにも違う印象に思わず眼を奪われたせいで思考が停止し、慌てて理由を考えるも、会いに来たなんて言えるはずもなく、黙り込んだ私に何かに思い至った彼女が小さく苦笑する。


「信頼されていないな、私」


「ち、違う!」


「違うの?」


「…………」


 反射的に否定するが、理由を問われても自分でも上手く分からない。結局何も言えないままの私を彼女はそれ以上追及しなかった。


「あと10分くらいしたら仕事が終わるから、それまで待っていてくれる?

夕貴はどうやって来たの?」


「…………自転車」


「じゃあ、自転車置き場で待っててね」


 カラカラと沢山のカートを押していく彼女の後ろ姿を見送る。まるで良く知った関係の様に接してくる彼女との距離感が掴めずについつい乱暴な口調になってしまう自分が情けなかった。だけど、自分が殺そうと思った相手が歓迎してくれるなんて、それこそおかしな話だし、愛想のない態度を取ってしまうのも仕方のない事だと思う。そんな事を考えながら店の外に出て、結局彼女を待つことにした。やがて、ビニール袋を手に持った彼女がこちらに歩いてくるのが見える。どうやら袋の中身はプリンやゼリーなどのスイーツらしく、無造作に詰められている。


「お待たせ。帰ろうか」


 自転車を押して彼女と並んで歩く間、特に話すことなどなく沈黙が続いていた。しばらくして、彼女が左手にバックを持っていることに気がついた。ビニール袋が大きいせいで両手を使わないといけないのだろう。何度かためらったものの、声をかける。


「ビニール袋貸して」


「?」


「自転車のかご、空いてるから」


 きょとんとした彼女に何故か恥ずかしくなって、無理矢理袋を奪うようにしてかごに入れ、ついでにバックも空いたスペースに押し込んだ。


「ああ、ありがとう」


 私が気を使ったのが分かったらしく、素直にお礼を言われた。彼女と目を合わさないようにして少しだけ歩くペースを上げると、照れていることに気がついたのか、隣で小さくくすりと笑う声が聞こえた。




 私のアパート前に来ると「荷物ありがとう」と言われ、自転車のビニール袋の中から小さなゼリーを一つだけ取り出す。


「夕貴、甘い物は食べる?」


「え、うん…………」


「良かった。

 それなら、これ食べてね」


「………えっ?何で」


 指差したビニール袋を見て私が驚くと「私、こんなに食べないから」と真顔で返された。


「私だってこんなに食べないよ」


「そうなの?女子高生って甘いものが好きなんじゃないの?」


「…………いくら好きでも限度があるでしょう」


「夕貴の好みが分からなかったから適当に買ってきたの。余るようだったら友達と食べれば良いじゃない」


 その言葉に袋の中身は初めから彼女が私の為に買ったことが分かった。先日の大量のパンも全て私の為だったのか、そう思うと、自分の中に急に怒りの感情が沸き上がった。


「…………どうして」


「?」


「どうして、私に気を使うのよ!!

私はあんたなんか大っ嫌いなのに!」


 感情任せに投げつけた言葉を彼女はためらいもなく受け止める。


「夕貴が私を憎んでくれるから、かしら」


「何、それ?」


意味が分からずに黙る私に構うことなく彼女は続けた。


「夕貴が初めてなの。私個人に感情をぶつけてくれた人は。

仕事の上でなら恨まれることもあったし、成果を望まれた。だけど、誰一人、あなたのお母さんも、私を誰も強く望んではくれなかった」


「…………」


「だから、上手く説明出来ないけど……それが嬉しいのかな。

たとえ向けられたその感情が憎しみだったとしても」


 彼女が私を見るその眼差しが酷く優しげであることに気がつき、思わず息をのむ。


「夕貴、正直に答えてくれる?」


「何」


「私が死ぬのを見届けたい?」


 あの時の出来事がフラッシュバックする。あれ以上の惨状が待ち受けているかもしれないと思うと知らずのうちに身体が強ばった。


「…………分からない」


「そっか」


期待も失望もしていない口調に、何故か胸がちくりと痛んだ。


「あんなもの見せられたら当然よね」


「…………」


「もし、気が変わったときは教えてね」


 ふと、彼女がぽつりと呟いた。思わず視線を向けると真っ直ぐに私を見つめる視線が何だか寂しそうで、目が離せなくなって、そのまま見つめ合う。


「…………麗には伝えておくから、心配しないで。

 今日はありがとう。おやすみなさい」


 ふっと小さく微笑んだ顔がやけに寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。


 バックを持って歩き出す彼女の後ろ姿を、私は複雑な気持ちで見つめていた。家に帰り、袋の中から形が崩れてしまったプリンを取り出し一口掬って食べると、甘さの中にほろ苦いカラメルが口中に広がった。

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