参議院選挙雑感 - Euthanasia has dead.

@sinusoidal_wave

Euthanasia has dead.

参議院選挙から一晩。

俺はコーヒーを飲みながら、スマホで開票結果を見た。

その結果を見て、俺はひどく落胆した。


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自民の議席数とか、改憲勢力が2/3以上を維持できなかったとか、そんなことはどうでもいい。

地元の選挙区で俺が入れた候補者が僅差で落選したのも、正当な選挙の結果だから特に気にすることではない。

もし当選した議員が何らかの問題を起こした日には嗤ってやるかもしれないが、たぶんそんなことはない。

田舎の議員の当落が国政に与える影響なんてたかが知れてる。


今回の選挙で面白いのは比例代表。

これまでの選挙が「複数のク○からマシなものを選ぶ」ものだとすれば、今回の選挙は「支持したい候補者・政党に入れる」ものだった。

表現の自由を守ることを公約に掲げてクリエイターやオタク等を中心に若者からの支持を集めた山田太郎。

山田太郎と一字違いでありながらSNSでの反応は正反対だった、得票数96万票を取ったものの特定枠に議席を譲った山本太郎。

山本太郎に席を譲られて当選した、重度障害を持つ議員となるれいわ新選組の舩後靖彦。

NHKの政見放送で強烈なインパクトを与え、最後には1議席を獲得したNHKから国民を守る党。

俺はこれらには投票しなかったが、当選・落選問わず全ての候補者に対して健闘を称えたい。


特に関心があったのが山田太郎。

ただでさえ日本は高齢化が進んでいて、その上若者よりも高齢者の方が投票率は高い。

その結果、政策も高齢者の方に向いてしまう。

政治が高齢者を守ることばかり考えて、その代償は現役世代の負担としてのしかかる。

若者は政治を信頼しなくなり、若者の投票率は下がる。

その結果、政治も投票率の高い高齢者を重視する……。

そんな悪循環を山田太郎は打破した。


若者と表現の自由を守る公約で、比例代表で50万票以上集めた。

若者とオタクは大きな票田になり、政治を動かす。

こうなれば政治も若者を無視するわけにもいかなくなるし、今までの悪循環を覆せる。


私が比例代表の投票策を決めたのも、これと同じ話である。

選挙で投票して、「ある事柄」に対して国民の関心があることを示したい。

今はタブーとなっている「ある事柄」を認めて、この国の未来を取り戻したい。


そう思い、俺は「安楽死制度を考える会」に入れた。


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安楽死制度を考える会(以下安楽会と書く)は議席を取れなかった。

まー仕方ない話ではある。

安楽会の代表、佐野秀光の経歴を調べれば、彼がうさんくさい男だというのはすぐにわかる。

過去には支持政党なしという政党名で出馬して、当たり前だが落選している。

当選したところで公約を果たせるとは思えないし、正直他に入れるべきところがあったように思える。

それでも、安楽会に投票しても国民が安楽死に対して関心があることを示せば、他のまともな議員も安楽死を無視できなくなる。

やがては議席を取り、安楽死を禁止する旧い法律を捨てられる。


その思いは、今回の選挙で壊された。


「安楽死で議席は取れない」

これが今回の選挙で分かった事実である。

少なくとも「NHKをぶっ壊す」という主張よりは支持されない。というかなんでこれで議席取れた。

政治家も、安楽死では国民の支持を得られないと分かれば、最早安楽死に触れることもない。

日本人は、福祉の名の下にぼったくり同然の税金と保険料を毟られて貧しい生活を送り、老いて病めば医療費泥棒の烙印を押されたまま医療を受ける生きる屍となる。

或いは、福祉の恩恵を受ける前に、貧困で死ぬかもしれない。

福祉の為の税金・年金・保険料で貧困に陥る、そんな本末転倒な国になるらしい。

もし安楽死が合法化されれば、不要な医療を受けて無意味に長生きすることも、その尻拭いで若者が貧乏になることもなかったのに。


2019/7/21

この日、安楽死は死んだ。

日本は安らかな死よりも、苦痛の生を選んだ。

生きて苦しめ、それが国民の総意だった。


———


ところで、今回の比例代表では安楽会の他にもう一つ入れる候補があった。

先ほど名前を出した、山田太郎。

安楽会が無ければ、こちらに入れてたと思う。

政治の力ではどうにもならない社会不安に対して、創作物は救いを与えてくれた。

俺もpixivにイラストを上げたりしてるし、表現の自由を守る山田太郎を支持する……はずだった。


もし山田太郎が落選していれば、表現の自由はどうなっていたことか。

知人の絵師も絵を描くのを止めるだろうし、そうなればファンの俺としても辛い。

もしかしたらpixivが閉鎖される可能性もある。

創作活動を続けるのは困難になり、一向に上達しない俺の画力や伸びない閲覧数・いいね数に悩まされる日々は終わる。


今回の投票は「創作活動に対する安楽死の選択」だった。

原因が努力なのか才能なのか、そんなもん山形選挙区の当選者が芳賀道也と大沼瑞穂のどちらかくらいどうでもいい。

結果論として、俺の絵は上達せず、また評価されることもなかった。

だからといって、創作活動を止めることも出来なかった。

Pixivに投稿したイラストは200枚を越えた。

おそらく、日本に表現の自由がある限り、不毛で虚無で無意味な非生産的な創作活動は続く。


そんなやめられない創作活動に終止符を打ちたかった。

これが、俺が山田太郎ではなく安楽会に投票した理由。


表現の自由は勝った、安楽死は死んだ。

今後も虚無と苦痛に満ちた創作活動を続けるだろう。

社会不安を救う救世主は今日も地獄の底で苦しんで生きているし、俺も救世主にはなれそうに無い。

わかってる。生きて苦しめ。死んで楽になることは許さない。死ぬまで創作活動を続けろ。それが国民の総意なんだろう?

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