第5話 なんちゃってBL・2
密室に、男の声が力ない声が漂う。
「先生……助けて」
懇願し助けを乞う男に、先生と呼ばれた男は冷静に答えた。
「そんな風に呼ぶな。いつもみたいに名前で呼べ」
「
涙目の男を見てニヤリと笑った
「さて、覚悟はできたかな?
祐樹は、右手をそっと彼の頬に持っていく。ピクッと肩を揺らして目を閉じた篤史は、その手を近づけさせまいと強く握る。
この密室には二人きり。長年知っている仲なのに、今日だけは緊張感に満ちていた。
「待て、早まるな。話し合おう」
祐樹の手を握ったまま、篤史は説得を試みる。しかし祐樹は容赦なく話し合いを断った。
「いや早まれよ。なるべく痛くないようにするから。多分無理だけど」
クスリと笑うその顔には、「おまえの苦悶の表情が見てみたい」そう書いてある。涙目の篤史は、絶対に通らない提案をする。
「帰ってもいいかな!?」
「なんでだ!?おまえが昨日の夜、『明日の会社帰り、おまえんとこ行ってもいい?』ってLIMEしてきんだろ。おまえのために時間あけたのに、帰るとかないわー」
「ごめん。でもやっぱり……!」
自分から勇気を出して連絡したものの、いざ祐樹の顔を見ると決意が揺らいだ。ビビりな篤史は、迷っていた。
が、そんなことは祐樹に関係ない。強引に事を進めようとその手を伸ばす。
「はい、すぐ見せて。すぐだから」
「うわぁぁぁ!この鬼畜!ドS!祐樹、こんなこと皆にしてんの!?」
暴れる篤史を無理やり押さえつけた祐樹は、さらりと言った。
「おまえだけに決まってるだろ?俺が鬼畜になるのはおまえに対してだけだよ」
「うわぁぁ!」
「おまえっ……!こんなの見せられたらこのまま帰せねぇな」
仰向けになり口をパクパクさせる篤史に、祐樹は身体を屈めて顔を寄せる。至近距離でのぞかれて、その場に押さえつけられるともう降参するしかなかった。
急に脱力した篤史は、目を閉じて黙る。耳に届くのは、安らかな心地になるオルゴールのメロディ。親友に身を任せる覚悟を決めた。
「お願いします……」
「あいよ」
――ゴォォォォ
突然の機械音。口内の水分が持っていかれる。
「まずは麻酔から~」
この日、篤史は大切なものを失った。ぐったりとした顔で、楽しそうに笑う親友を見つめる。
「差し歯っていつできんの?」
「一週間ちょっとかな。連絡するわ」
「美人の歯科助手さんにされたかった……」
「浮気かこのやろう。
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