迷走する奔走
#1
冷静を装い精神的パーソナルスペースをつめれない二人も酒の陽性な不可抗力で余所余所しさは融解の一途をたどった
深みが益しはじめる夜、類似した傷を肴に愉悦な会話が弾む
時刻は0時を過ぎ店を出ると一種の戦友のような連帯感が生まれていた
馬渕がイチョウの形の緑のガードレールにもたれ空を眺めて笑い出した
その様相を見て古川も同じように地べたに腰を下ろして空を眺めた
ビルとビルの間から長方形の夜空と半欠けの月が熱帯夜を彩っていた
「やべー古川さんオレ立てねぇ」
呂律がギリギリ回っている馬渕が笑いながら嘆いている
「俺もケツがアスファルトに、へばりついて立てねえ」
二人は酔いに任せて無邪気な子供のように笑い馬鹿をしている
「なぁー馬渕、俺たちこのまま狂いながら死ぬのか?」
「狂うねぇ……それも人生だー!!どうせ死ぬんだし」
高らかに叫ぶ酔っ払いの声が投げやりで自暴自棄だとしても古川にとって
その言葉が悩まされている幻を今だけ遠ざけてくれた
「そろそろ行こうぜお巡りに注意されたりマスターに出くわしたら情けねえだろ30過ぎたおっさんが」
「そうなんなくても情けねえよ、女に逃げられて抗鬱剤キメテタ過去があるんだし。ヘタレだよまったく」
お互い足元がおぼつかないが馬渕の千鳥足は転んでも顔で受け身をとりそうなので、まだましな古川が馬渕の腕をつかんで帰路についた
「鍵は有るけど、どれだがわからないよ先生」
馬渕は部屋の前でカギを揺れに揺れた手つきで探している
「早くしろよ酔っ払い、あと少しでゴールなんだぞ」
馬渕のキーケースを横取り古川は端から順番に試していく
3回目のチャレンジでドアは開き馬渕を部屋に押し込みソファーに寝かせて古川の帰宅の番が回ってきた
帰れる余力が残っていたはずだった、しかしそれは思い込みで過信
ソファーで爆睡する酔っ払いと同様、古川も泥酔者
馬渕の家で崩れ落ち意図しない眠りに落ちた
目が覚めた時に古川は帰宅できなかった事実を認識した
部屋を見渡したが馬渕をはいない、もしかしたらこれは夢かも
ドアを開けたら違う景色に変われば夢だと確信を持てる
玄関に向かおうと立ち上がるとトイレのドアが開いた
一瞬何が出てくるのかわからないので構えたが案の定、馬渕が出てきた
「頭痛と下痢のダブルパンチだよ」
馬渕は疲れた顔で朝から陽気だ
「すまん帰れなかったわ」
二日酔い特有の気持ち悪さの中、馬渕みたいに陽気に振舞ってみたが
声に張りがなく無様だった
「コーヒー淹れえるけど飲む?」
「貰うわ、あとこの家は禁煙?」
「御煙草は台所の換気扇の下でお願いしまーす」
「奇遇だねウチも一緒だよ」
夏の朝に飲む馬渕の熱いコーヒーは二日酔いをやわらげてくれた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます