#12
人間生きていれば予想が外れることが幾度とある
今日の予想も外れている、なんでこんなに混んでいるんだ
たまたま早起きした月曜日、いつもの調子で支度して
家を出れる準備が整い時間を確認すると通常の出発時間1時間前だった
気持ちは会社に向かっていて今更くつろぐ気になれない
土曜に行った病院が臨時休業だったので
念のため会社のホームページを確認してみた
臨時休業はないが創立記念日で休みの可能性がある
詳しく確認していると社員食堂で朝食を出していることを発見した
会社がビルに入ってない人でも低価格で朝食を食べれる
朝食を出すのは試験的に今日から月、水、金曜日
誰が発案したか知らないが人は来るのか?
時間を持て余してることだし試しに行ってみた
会社の15階に着いた時、その光景に目を疑った
ざっと見て8割の席が埋まっている
メニューが豊富で後払いのビュッフェ形式
食事を選びテーブルに着いてトレイに置かれた品を見て和を感じた
御飯、味噌汁、納豆、焼き魚、目玉焼き、漬物
自分で選んでわかったのは欲している朝の日常
目の前に並ぶ日本の朝の家庭料理だった
窓際の席で景色を見ながら食べる朝食
始業時間はあるものの、会議やクライアントと打ち合わせ
時には自宅から客先へ向かったりするため出社時間は疎らだ
それなのに朝から混んでいるのは企画が当たった証拠だろう
月曜の朝に会社にいるのにリラックスして食事をしている
少しばかし旅行先で朝食をとっている気分に近かった
「随分と古風な食事ね」
スムージー片手に理沙が前の席に座って話しかけてきた
「大当たりでしょ、この企画」
「おまえの発案なのか?」
「試しに提案してみたら通ったのよ、褒めてよ古川さん」
理沙の発案か、プレゼンの上手い理沙の事だ
綿密なデータ収集からの朝食の良さを打ち出し
論理的を前面に掲げ最後に個人的感情で締める
口の上手い女は敵に回せば鋭利な凶器だ
「褒めてくれなくてもいいけど、そろそろ済ましてね」
「もう食堂閉まるのか?」
「横浜にお出かけよ2人で」
12階でエレベーターを降りた理沙が不思議そうな顔で此方を見ている
「何しているの、早くしてよ」
俺のオフィスは11階なのに何故なんだろう
朝食のせいで思考は鈍っているかもしれないが仕方ない
あなたのオフィスに連行ですか仰せの通りにお供しますよ
無言で金魚の糞のように付いて行くと1つの疑問が浮上した
「手ぶらでいいのか俺は?」
「必要ないわよ資料は全部こっちにあるから」
理沙のオフィスに入るとデスクに腰掛けおかしなことを言い出した
「しちゃう?社内SEX」
「朝飯急かした理由はそれかよ」
呆れた口調で言ったが感心したこともある
朝からよく回る頭と口だな
荷物をまとめ終わると着ていたジャケットをハンガーにかけだした
「本当にするのかよ?それとも朝飲んでたスムージーにヘロインでも入ってたのかよ?おまえもとうとう気が触れたか」
「堅物にしては面白いこと言うじゃない」
予想が外れてほっとした、流石にそこまではしないよな
気が触れてるのは俺なのかもしれない
「暑いから脱いで行くのよ、知ってた?梅雨明けしたこと」
今年も梅雨明けしたのか
夏らしいことをする予定もないのに必ず夏はやって来るんだ
隣で歩く女は、いつだって涼し気な表情でいるけど
ひどく蒸し暑い日々が始まる、気が狂うほどの
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