#11

混雑した頭の中の情報を整理してみる

急に話しかけられた男よりも事故が起こる前に見た景色が鮮烈すぎた


異今都の奥の席で見ることがある幻影だけではなかった

成長したメグミから別れた恋人の泉へとグラデーションして変わる幻

確実に此方を見て2人は笑っていた

泉に変わり幻は徐々に薄れていき完全に消えた瞬間に事故は起こった


自宅のアパートの前に着いても階段を上がる事はできずにガードレールに腰掛け考えてみる


泉に好意を寄せたのは偶然ではなく

メグミの面影を泉に重ねていたのかもしれない


結局あの時から俺は変わる事を望んでも変われずに自分を偽って生きている様に思えた


また俺は壊れてしまうのか

そんな一抹の不安がよぎってきた


結局は、こいつ頼みなのかもしれない


近所のスーパーで瓶ビールを籠に入れている

1本ではなく6本ワンセットになっている方を選ぶなんて心の弱さを象徴している


泉と別れて酒の量が増えたはじめた時はビールの消費が多くキッチンの一角を空瓶が占拠していた

週に1回355mlの多量の空瓶を捨てるのが面倒になり家でのビールをやめたのが遠い過去のようだ


もう一度壊れるわけにはいかない

あんな思いをするのは嫌だから医者にまで行ったんだ


ビール瓶を棚に戻し何も買わずに家路についた


帰宅してソファーにもたれ話しかけてきた男を思い出している

男を見たんじゃないかと言っていたが検討外れだ、俺が見た幻の性別は女性しかも2人


待てよアイツは男の幻を見たのか、あの場所で

そうなると奴も俺と同様に心が壊れた過去があるのか

立ち直りかけて振り出しに戻りそうな時に見ず知らずの男と傷を舐め合うなんて馬鹿げてる

心が壊れていても奴はクスリでもやって脳に異常をきたした末の幻覚かもしれない

同じ場所で幻を見たとしても薬物中毒者と同類は御免だ



気分転換にシャワーを浴びようと思い立ち上がると足が縺れソファーに身体を再度預けることになった

テーブルに置いてある財布が目に入って振り出しに戻らない方法を思いついた

財布から診察券を取り出し見ていると苦くて甘い過去に少し浸ってしまった


助けを乞うのも悪くないはずだ


久しぶりに行ってみるか聖母のもとへ

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