#9
追われている彼は俯いた姿勢で自分と相反する鈍い足取りだった
距離は瞬く間に縮まり彼の肩を叩き話しかけた
「すいません今さっき、おかしなもの見ませんでしたか」
驚いた顔でこちらを見る彼は天候とは真逆の曇った顔をしている
「誰だか知らないですけど、あなたが1番おかしな者に見えますよ」
「すいません急に話しかけてしまって、でもさっきあなたは事故が起きた現場とは反対の歩道を見ていましたよね」
今の一言で彼の顔つきが変わったのを見逃さなかった
明らかに動揺しているのが視覚だけではなく肌を伝って感じとれた
「宗教の勧誘なら他をあたってくれ、こっちは神に祈る趣味は無いんだ」
語尾が上ずっている何かを隠しているのは明白だ
微妙な声の震えも聞き取れた
動揺が隠せない台詞を吐き捨てるように言った後、彼は再び歩き出した
放っておいてくれと言わんばかりに鈍かった足取りを早めて歩く
「あなたも見たんじゃないですか、あの男を」
足を止め振り向き
呆れたような顔で言葉を突き返した
「じゃーあんたの勘違いだな俺が見たのは男じゃないんだわ」
その顔からは、さっきまでの動揺は消え
声には震えはなく妙な落ち着きがあった
小さくなっていく男の後ろ姿を見ながら忘れていたビニール袋の重みが片手から伝わってきた
無意識に追いかけた男の様に落胆し俯いた姿勢で自宅に引き返した
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