#13

「笑えるのは今のうちだぜ、これからは本当に笑えなくなるからな」


バックミラーに映る男が喋っている

見覚えのある顔、あのスキンヘッドの男だ


忘れていたあの日のこと

何故今になって出てきた

「久しぶりだろこの感覚」

笑いながら喋る男に嫌悪感を抱き自然に眉間に皺を寄せていた


「おっかない顔するなよオマエしか見えない真実だぜ、むしろ感謝してくれよ」

「随分横柄だな」


後部座席の男は笑いだした

手で膝を叩きながら爆笑してやがる


この男に怒りが湧くが言い返す言葉が見つからない

怒りでハンドルをぶっ叩きクラクションを鳴らし後ろを振り向くと男はいなくなっていた

パワーウィンドウをノックする音で我に返った


不思議そうな顔で理沙が車を覗き込んでいる

「大丈夫?クラクションなんか鳴らして」

「ちょっと誤って鳴らしただけだよ」

「ならいいけど、それより汗かいてるわよ」


額を触ると少量の水滴が掌に感じとれた

「戻るけど乗って行くか?」

「夜まで無理よ終わったら連絡する」


車で本社に向かいながら理沙に救われたのを実感した

あのままだったら何をしてたかわからなかった

自分を保てなかったかもしれない恐怖

ハンドルを握る手に力が自然と入る

恐れの正体は己の中にあるのか

言い知れぬ不安が湧き上がってきている

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