#2

スポーツジムが併設されているコンシェルジュのいるマンションに住み

仕立てたスーツに値段のはるシャツとタイピン

英国産のビジネスシューズ


傍から見れば典型的な成功したビジネスマンなんだろう

キッチンでビールを飲み煙草を吸いながら思う

生き甲斐なんて持ち合わせていない

いや、離婚した時に生きる活力をどっかに置いてきた


別れた女房にすすめられて買ってしまった赤い2シーター

結婚というトラップにかかって欲しかったはずの90年代に発売された黒いバンを買いそびれた

欲しかった車は車体価格で100万もしないのに5倍以上する鉄屑に毎日乗っている

女選びも車選びも失敗したけど再婚も車の買い替えも気が進まない


まさに無気力だ金は使いたいと思う力がないとあっても意味がない

訪れる毎日を惰性でどうにかやりくりしているのが現状で

気づけばスーツに着替え赤い鉄屑に乗り会社に向かっている

あの頃に勢いで買ったコイツのハンドルは月日が経ちすぎたせいで自分の手に馴染んでいる

鉄屑なんて表現してるが愛着はあるのは否めない

この車を買うきっかけをくれた女には今では愛なんて微塵もないが

こいつを買うきっかけをくれたのは多少感謝している


渋滞はしていないがそれなりに混んでいるが流れている金曜の朝の道路

信号待ちで隣の車から視線を感じた


見てみるとスキンヘッドにサングラスをかけた男が車内からこちらを見ている

明らかに笑ってるのがわかった

こちらも笑い返そうかと思ったが止めて前を向いた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る