第30話

 しばらく隣の部屋に潜んでいたもののギルド長は部屋から出ていくことなく真っ暗なその部屋で待機していた。

 もしかして、一晩中そうしているつもりなのだろうか?

 さすがにそうされると暗殺するタイミングがなくなってしまう。


 カイは苦笑を浮かべる。


 ただ、一日だけ寝なくてもいけるかもしれないけど、それが何日も続くはずがない。

 それならばしばらくこうして様子を見続けたら隙を見つけることができるかもしれないな。

 でも、そのためには――。



「よし、一度戻るか……」



 家ではチルが待っている。

 あまり長いこと家に帰られないと心配させてしまうかもしれないのでカイは今日のところは帰ることにした。


 ◇


 家に戻ってくるともうすっかり外は日が暮れているにもかかわらず、チルはまだ起きていた。



「あっ、カイさん、お帰りなさい」

「あぁ、ただいま。まだ起きてたんだな」

「はい、そろそろ寝ようかなと思ったんですけど、まだ寝られなくて……」

「そうか……。俺はもう寝るつもりだけど、チルはどうする?」

「一緒に寝ます」



 チルは嬉しそうに答えてくる。

 やっぱり俺が帰ってくるまで待っていたんじゃないか?

 そんな疑問を浮かんだが、喜んでいるチルを見ているとそれ以上言うことはなかった。



「あっ、そうだ。チルに聞きたいことがあったんだが――」

「どうかしましたか?」



 不思議そうにチルが聞き返してくる。



「いや、どうやったらギルドの職員になれるのかなって思ってな」

「……もしかして、カイさん、転職されるのですか? そ、それでしたら冒険者ギルドだけはおすすめしないんですけど……」

「おすすめしない?」



 特にしてる仕事は普通の受付といった感じにみえるのだが――。



「えぇ、意外と裏でする仕事が多いんですよ」

「どんな仕事があるんだ?」

「まずはよく知られている受付の仕事ですね。依頼の受諾をしたり、冒険者登録をしたり……。これはカイさんも知っていますよね?」

「あぁ、もちろんだ」



 むしろそれが仕事のメインだと思っていたが。



「他にもギルド内でお酒や料理を出しているものを運んだり、実際に調理されている方もいますね」



 そうか、冒険者ギルドだと料理も提供していたんだったな。

 カイは冒険者ギルドで食事をしたことがなかったのですっかり忘れていたが、チルに言われて改めて思い出す。


 冒険者の面々は依頼をこなした後にその場でよく食事をとっていた。


 その金も冒険者ギルドからしたら貴重な収入源なんだろうな。



「他にも何か仕事があるのか?」

「もちろんですよ。依頼が降って湧いて出てくるわけではありませんからね。たまにあのときのカイさんみたいに直接来られる方がいますが、基本的にはギルド職員が依頼になりそうなものを探し出してくるんです。それがなかなか大変で……。人気のある討伐系依頼は早々見つかりませんし、逆に人気がないような雑用系はたくさん集まりますし……。それをいかに受けてもらえるようにするかを考えるのもギルド員の仕事なんですよ」



 よほど大変だったのか、チルの言葉数は多くなっている。



「まぁそれでも上手くいけば上級ランクの冒険者と親しくなれるということもあって女性人気はあったんですけどね」

「それじゃあギルド員になろうとするのは大変そうか……」

「いえ、カイさんは男性ですからね。きっと受付で職員になりたいと言ったらすぐになることができますよ。人手はいくらあっても足りませんから。特に男手はいつも募集されていますよ。……まぁ、冒険者ギルドに来る男性はほとんど冒険者志望ですけどね……」



 チルが乾いた笑みを浮かべていた。

 まぁ、そうなるよな……。

 特にチルの話を聞いている限りだと激務だろうし、その割に給料は高くなさそうだからな。

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