第28話
カイは武器屋にナイフを買いに来た。
ただ、表通りにある武器屋ではなく、裏通りの……、武器屋の看板すら上がっていないただの家へと入っていく。
「誰だ!」
カイが突然扉を開いたので中にいた老人が驚いて声をあげていた。
「俺だ……」
「なんだ、カイか。珍しいな、お主がここに来るなんて……。何かあったのか?」
「いや、いつもの要件だ。ただ、前回の依頼で大量に武器を消費してしまってな。余裕がある間に補充しておきたいんだ」
「あぁ、例の大量暗殺の件か……。まぁ儂には関係ないな。金さえもらえるのなら武器は作ってやろう」
「助かるよ」
ここの老人は鍛治の腕は一流なのだが、誰にでも売る……とにかく金にさえなるなら犯罪者にすら武器を売るという所に目をつけられて表で武器を販売することができなくなった。
でも、やはり腕がいいのでカイなどはこうやってこの老人がいるところに武器を買いにきていた。
「それで今日の金額だが……」
「いつも通りで良いよな?」
カイが老人に金貨を大量に渡すと彼は笑みを浮かべた。
「くくくっ、これだけあればまた酒が買えるな……」
「あまり飲み過ぎるなよ。それじゃあまたもらいに来る」
「あぁ、明日までには準備しておくよ」
それだけ伝えるとカイは店を出て行った。
◇
夕方になり、カイはチルを迎えに来た。
「あっ、カイさん、お帰りなさい」
「あぁ、ただいま。それじゃあそろそろ帰るか」
「はいっ」
嬉しそうな表情を見せるチル。
そんな彼女と二人並んで家に帰っていく。
「そういえばカイさんは今日は何をされていたのですか?」
「俺は武器を買いに行ってきただけだな。たいしたことはしてないぞ」
「たいしたこと……。そ、そういえば今晩は出かけられるのですよね?」
「あぁ、もしかしたら戻ってこないかもしれない。そのときは先に寝ててくれ。戸締まりはしっかりな」
「わかりました。でも、なるべく起きていますね。……その、カイさんと二人で寝たいですから」
チルは恥ずかしそうに言ってくる。
この前の旅でチルは一人で寝るのが怖くなったのかもしれない。
「わかったよ。なるべく早めに仕事を終わらせて戻ってくるよ」
「はいっ」
嬉しそうに返事をするチル。
そんな彼女の表情を見ながらカイは冒険者ギルドに向かっていった。
◇
夜になる。
周りはすっかり寝静まっていて物音が少なくなってきた。
しかし、冒険者ギルドの中ではまだ騒ぎが起きている様子だった。
どうやら冒険者が酒を飲んで騒いでいるようだった。
さすがにこんな中乗り込める気はしない。
わかっていたことだが、まだ冒険者が中にいるので下手に入っていくと目立ってしまうだろう。
他に入る場所……、もちろんギルド長の部屋に窓がある。
そこから入れないか確認しに行こう。
冒険者ギルドの周りをグルッと回る。
そして、ギルド長の部屋の前までやってきた。
部屋の中には誰もいないのか真っ暗だった。
もちろん窓の鍵はしっかりと締まっていた。
このままだと部屋には入れない。
できれば外から開けたと知られたくないからな。
とりあえず一度他の窓も開いているところがないか調べてみよう。
◇
カイは一通りの窓を調べて回った。
その結果、唯一空いていたのはギルド職員が休憩に使う部屋だけだった。
仕方ない……。ここから入るか……。
カイは窓からギルドの中へと入っていく。
一応一日中空いているギルドでは交代で誰かが受付に出ている。
だから急に人が来ないか警戒は怠らない。
今のところ誰かが近付いてくる様子はないな。
周りを確認した後、カイはゆっくりギルド長の部屋へと向かって歩いて行った。
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