第26話

 家に戻ってきてから数日が過ぎた。

 国王を暗殺したにもかかわらず平和な日々が過ぎていたのは不思議に思っていたが、よく考えると今までやたらと依頼が重なっていたのがおかしいことだったのだとカイは思うことにした。



「カイさん、そろそろ行ってきますね」

「あっ、待ってくれ。俺も出かけるよ」



 ブラークの喫茶店へと向かってで駆けようとする。

 それをカイは慌てて追いかける。



「でもカイさんの仕事、何もないんじゃないですか?」

「いや、人の仕事がないみたいな言い方は止めてくれ」

「ない方が良いですよ、カイさんの仕事は」

「まぁそうだな……」



 やはり国王を一人暗殺したというのが大きかったんだろうな。

 すこし苦笑をしながらチルが答える。

 それに対してカイは同意し返す。



「でも、店に行ったらブラークが何か仕事を準備しているかもしれないからな。それにチルを送っていくのも俺の仕事のようなものだからな」

「……わかりました。それじゃあ一緒に行きましょう」



 チルが手を差しだしてくる。

 その手を取るとカイ達は店までゆっくり歩いて向かっていった。



 ◇



「相変わらずお前たちは仲が良いな……」



 ブラークの店に入るとまず第一声にそれが返ってくる。



「一緒に住んでいるからな。当然だろう?」

「いや、そういうことを言おうとしたんじゃないんだけどな。まぁいい。残念だけど、今日もカイ宛てのものは何もないぞ?」

「まぁそっちは期待していないからな。ただ急に減ったよな」

「今回は事情が事情だったからな。依頼したら自分も殺されると思っているやつはいそうだな」



 ブラークが顎に手を当てながら教えてくれる。

 その間に店の奥で着替えを済ませたチルが表に出てくる。



「お待たせしました。どうですか、この服装は」



 チルは色あざやかなピンク色のエプロンを身につけていた。

 それを見てカイは視線をブラークへと向ける。



「おい、これはどうしたんだ?」

「ふふふっ、すごいだろう?可愛い衣装につられて客が入ってくると言う噂を聞いてな。せっかくだから買ってみたんだ」

「たしかにチルには似合ってるな。それでお前は……」



 ブラークの姿を見る。

 彼は何故かスーツ姿をしている。

 ガタイのいいスキンヘッドのブラークがスーツ。


 その怪しさたっぷりの姿を見て、カイはすぐに視線をそらす。


 可愛い女の子がいて、ボディーガードみたいな怪しい男がいる店。

 どう見てもいかがわしい店だな。



「どう考えてもこの店にはお前が邪魔だな」

「何を!この店は俺のだぞ?」

「あぁ、だからお前は裏に引っ込んでおいた方が客入りは良いだろうな」

「それだと俺は何をしたらいいんだ?」

「さぁな。便所掃除でもしてたらどうだ?」

「なにをー!」



 ブラークがカイの肩に手を伸ばす。

 それをサッとかわすカイ。



「まぁ、それよりももっと大変な情報があるが聞くか?」



 急にブラークの顔つきが変わる。

 それを見てカイは大きくため息を吐く。



「いらないよ、そんな情報。どうせロクでもないことだろう?」

「まぁな。近々この国が戦争になるかもしれないという程度のことだ」

「あぁ、そうだと思ったよ。国王が暗殺されたんだからな。状況的にこの国のやつが依頼したとわかるわけだし」

「そうなったらお前への依頼もたくさん来るだろうな」

「あまりたくさん来ても俺一人じゃこなせないんだけどな」

「まぁ、そのときは暗殺者ギルドの方に行くだろうな」

「そうしてくれ。あと、戦争のまっただ中に暗殺しに行く気はないからな」

「わかってるよ。俺もお前に死なれては困るからな。そんな無理はさせねーよ」



 ブラーク自身も仲介として金を取っているわけだからな。

 その点は安心していた。

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