第24話
カイはブラッシュの部屋をある程度綺麗に片付ける。
ゴミは端の方に固めて、入りそうなものは机に避けておく。
ただ、あえて片付いているものもゴミと同じように端に寄せたり等をして、かなり散らかっていた感じを出すことを忘れずに……。
そして、ようやくある程度片付いた頃に部屋の扉がノックされる。
「ブラッシュ様、中に入ってもよろしいでしょうか?」
「はい、ブラッシュ様は今出かけられてますけど」
扉が開けられて、少し使い古されて丈夫そうな鎧を着た兵士の人が中に入ってくる。そして、まず最初にカイに声をかけてくる。
「お前はどうしてここに?」
「ブラッシュ様に掃除を頼まれまして、こうして部屋のお片づけをさせていただいてました。……何かあったのですか?」
兵士は部屋の中を見渡したあと、首を横に振った。
「いや、大丈夫だ。それよりもこれだけの掃除、大変だったな。あと少しだろうから頑張ってくれ」
「はっ……、かしこまりました」
兵士が可哀想な目でカイのことを見てくる。
おそらくこの兵士もブラッシュから何かされたことがあるのだろう。
そして、兵士は何も教えることなくこの部屋を出て行った。
(俺は疑う必要がないと思われたのだろう。あとはこの部屋を片付けて堂々と出て行くだけだな)
カイは満足そうにサッと残りを片付けてしまってから、手に開いた皿を持って部屋を出て行った。
◇
そのまま厨房へと向かっていく。
数人の兵士達はバタバタと慌てて行き来しているが、それは少数で城にいる大多数の兵士達は変わった様子がなかった。
のんびり平然と歩いている兵士。
さすがに国王が殺されたことを知っていてこんなにのんびりできるはずがないだろう。
だからこそカイは皿を返した後に何も知らない兵士を装いながら城の外へ向かって歩いて行った。
「おい、お前。何をしているんだ?」
門から外に出ようとするとそこを守っていた兵士に止められる。
「町の方へ買い出しに行こうと思ったのですが?」
「今は外出禁止だ。まだ全員に広まっていないようだが――。すぐに解除されると思うからしばらくは待っていてくれ」
兵士は申し訳なさそうな表情を見せてくる。
おそらくこの兵士は何が起こっているのかを知っているのだろう。
そして、カイは何も知らないのだと考えているのだろうな。
ならここは――。
「何かあったのですか?」
「いや、たいしたことじゃないんだ。ちょっとトラブルが起こって今調べている所なんだ。一応兵士達には城で待機の指示が出ている。すぐに判断できると思うからもうすこし城の中で待っていてくれ」
「……わかりました。ではまたトラブルが解決する時くらいに来ますね」
「あぁ、済まないな」
兵士に頭を下げてカイは城の中へと戻っていく。
◇
さて、どうやって外に出るか……。
カイは頭を捻りながら考えていた。
唯一外へ繋がっている門の近くで身を潜める。
すると料理人達は普通に門を出入りしていることがわかった。
なるほどな。
これを利用すればすぐにここから離れられるな。
それをみた後、カイは再び厨房へと戻っていった。
◇
「あれっ、兵士さん? どうかしたのですか?」
料理人の一人が不思議そうに聞いてきた。
「すこし用事があってな」
「そうですか……。てっきりまたブラッシュ様から何か持ってくるように言われたのかと思いました」
「……そのときはまたよろしくお願いします」
カイが小さく頭を下げると料理人が苦笑を浮かべる。
「大変ですね。わかりました、そのときは力を貸しますね」
料理人が笑みを見せてくれる。
それに対してカイは小さく会釈をする。
そして、近くの部屋に入る。
そこで鎧を脱ぐと私服姿に戻る。
以前見ていた料理人は城に入るときは私服だった。唯一違う点はあのときは肉をもっていたこと。
つまり普通に私服で出て行くとそいつは料理人と思われる……ということだ。
そして、その予想は当たっていたようで、私服に着替えて出て行こうとする。
すると兵士の人に声をかけられる。
「いつもご苦労様です。また明日もお願いしますね」
笑みを見せながら頭を下げてくる兵士。
それに会釈を返して、カイは城を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます