第16話
女将に案内されてやってきた部屋は二人で使うにも大きい部屋だった。
そして、その中央に置かれた大きなダブルベッド。
「カイさん、とっても大きなベッドですよ……って、ひ、一つだけですか?」
チルが一瞬喜んでいたもののすぐに恥ずかしそうに顔を俯けてしまう。
「そ、その、私はカイさんでしたら何をされても……」
「まぁただ寝るだけだし、これだけ大きなベッドだったら気にするまでもないか」
「……そ、そうですね」
当然のように返したものの、チルは乾いた笑みを浮かべていた。
「それでカイさんはこれからどうしますか?」
「そうだな、俺は少し城の方を見てくる。チルはどうする?」
「私もついていっていいですか?」
「あぁ、別に構わないぞ。今日は本当に見て回るだけだからな」
改めて伝えるが、嬉しそうな表情を見せてくるチルに伝わっているのかはわからなかった。
◇
宿屋を出たカイ達はまっすぐにお城へとやってきたが、そのあまりの大きさに前で立ち尽くしていた。
「まぁ、兵士たちが守ってるよな」
ここが疎かな城なら潜入するのも楽だったんだけどな……。
カイは苦笑を浮かべていた。
これなら別の潜入方法を考えないといけないな。
「すごく大きなお城ですね……」
チルが感嘆の声を上げている。
ただカイは別のことを考えていた。
(兵士たちはみんな銀の鎧を着込んでいるな。一般兵はそれと決められているのだろうか?)
じっくり兵士を観察するカイ。
やはり鎧から剣まで数人見た限りだと全く同じものを使っているようだった。
つまり装備さえ合わせておけばカイが紛れ込んでもバレなさそうだ。
細かい調整はできる限り兵士の人と接触して調整だな。
接触といってもバレないように陰で眺めるだけだが。
あとはあの装備。
どこで手にいれられるのかを調べる必要がある。
当面の目標はその二つだろうな。
「あぁ、大きい城だな……」
「おい、ここで何をしている」
チルと二人で眺めていると城の門を守っていた男に声をかけられる。
「ここまで大きなお城が珍しくて……」
「なんだ、旅のものか。すごいだろ、この国の力を現す大きな城は……。これも我が国の国王様のお力だ」
町の中は少し荒れているのに城だけ大きいのはある意味国王の力だな……。
カイは苦笑を浮かべていた。
ただ、兵士達は国王を崇拝している。これは重要な情報だろうな。
「わざわざありがとうございます。では、他の所も見て回ろうと思います。チルもいくぞ」
「は、はいっ……」
チルが慌ててカイの後を追いかける。
そして、カイ達の姿が見えなくなると兵士はニヤリと微笑んでいた。
「おい、俺は少し用事ができた。ちょっと出かけてもいいか?」
「……あぁ、ただほどほどにしておけよ」
「もちろんだ、色々と教えてやって金を貰うだけだからな」
兵士は高笑いしつつ、持ち場を離れていった。
◇
「カイさん、次はどこに行くのですか?」
「そうだな、次は店を見て回りたい……が」
カイはふと後ろを見る。
すると隠れているつもりなのだろうが、建物の影に銀に光る鎧が見えていた。
さすがにこのあたりで歩いている人たちにそんな服を着ている人はいない。
(俺たちをつけているのはこの町の兵士……ということか。でもどうして? 怪しいことはしなかったはず……。いや、むしろ弱いからこそ狙うやつもいるか。先ほど話した結果カモに思われたんだろうな。すぐに襲ってくる気配はないから様子見しながら……消すか)
今は大丈夫でもこれから暗殺の仕事をするわけだしいつまでもつけられると邪魔になる。それなら排除するしかないだろう。
一度懐に手を入れてしっかりナイフを持っていることを確認する。
これがあればひとまずは大丈夫だ。
あとは……どこで消すかだな。
さすがに来たばかりのこの町をカイはそこまで詳しくは知らない。
下手に手を出すと騒動を起こしてしまうかもしれない。
それもあって今は後ろに付いてくる兵士を放置していた。
「とりあえず装備を買える店からだな。そんな店を見つけたら言ってくれ」
「わかりました!」
やる気を見せてくるチルに苦笑しながらカイは後ろを警戒しつつ通りを歩いて行った。
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