シラミと共に
「そうかい。若いのに淡白だねえ」
ライネは残念そうにそう言った。おそらくこの町で仕事をしている娼婦と話をつけて、宿で安全に<仕事>させる代わりにいくらか分け前をもらってる感じだろう。ここでの生活というもの一端が見えるな。
そうだ。異世界といえどそこには人間が生きているのだ。そして人間である以上、何か極端な違いがある訳でもない。メシを食ってクソして寝て働いて子作りに励んでいるだけだ。
ただ、ここでは人の命の値段は安い。
『いくら死んでも勝手に生まれてくる分、家畜よりもレア度は低い』
という認識だからな。故に人を殺すことに対するハードルも低い。殺人に対する刑罰は基本的に死刑だが、捜査能力が低いので、怨恨などではない行きずりの殺人であれば検挙率はそれこそ三割を切っているらしい。
ましてや娼婦などが殺されたところでまともに捜査もしないから、娼婦殺しで捕まるのはよっぽどの間抜けだそうだ。
なのでせっかくの殺人のチャンスであったのに、
その後は、ただ無為に時間が過ぎていくだけだった。
デインは自身の剣の手入れを熱心にしているものの、そのやり方を知らん。だからといって今日会ったばかりの胡散臭い男にそのやり方をご教示願う気にもなれん。
テレビもない。パソコンもない。スマホもない。CDもDVDも音楽プレイヤーもない。それこそ夜の娯楽となれば酒場に行くか金で女を買うかくらいしかないのがこの世界だ。
で、まだ日が暮れてそれほど時間は経っていないようだが、油を満たした皿に細い布を浸してその先に火を点けたランプの灯りは
すると今度は体のあちこちが痒くなってくる。
『蚊でもいるのか…!?』
と思って体をよじると、ランプの灯りに辛うじて照らし出された毛布らしき布の上ですごく小さな何かが動くのが見えた。
『虫……!?』
それは、シラミだった。きちんと洗濯されていない毛布に、前の客の体から移ったシラミがついていたのだろう。シラミはノミと違って動物の体から長く離れていると飢えて死んでしまうため、急いで新しい宿主の体に移ろうと必死になっていたようだ。
「くそっ!! ふざけんな!!」
思わず怒鳴って飛び起きた
「なんだ? どうした?」
剣の手入れをしていたデインが問い掛ける。
「虫だ! 虫がいんだよ!!」
忌々し気に吐き捨てた
「シラミか? ノミか? それぐらいでなにを騒いでるんだ」
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