おまえ、もしかして幽霊か!

衣乃

第1話

僕には昔から悩みがあった。

それは、幽霊が見えることだ。


……いいや、そんな特異体質は暴露するにはあまりにもありふれている。

しかしいくらありがちなものといえ、僕を苦しめていることは確かなその体質は歳を取れば取るほど深刻化していってる気がする。



そういえば高校に入学して間もなく、廊下ですれ違った男子生徒に道を聞いてると周囲にドン引きされたことがある。

何故か? その男子生徒はそもそも生徒だったからだ。

傍からしたらそれは奇妙極まりない光景だっただろう。

誰もいない虚空に向かって道を尋ねる僕の姿はたちまち校内の噂になった。




そして現在。

僕は学年でも厄介な立ち位置の奴らに絡まれて過ごしている。


「おい望月! 今日はなんか見えんのかよ」

「いや、見えないよ」

「つまんねーの」


こいつはそんな厄介グループのリーダー。

毎週木曜の放課後、僕は彼らにいじめられる。

誰もいない教室で、僕一人居心地の悪い最悪な思いをしていると目の前にいたリーダーの奴が急に立ち上がって僕を指さした。

「お、おい!」

「どうしたの?」

「お前気付かねーのかよ!! 幽霊が、後ろに!」

そして震える指先を確認するように僕は振り返る。が、そこには誰もいない。

教室全体を見渡す間もなく僕は背後から強い蹴りを食らった。

「痛い、なにするの……」

「幽霊なんていねーよばーか! あーおもしれ、てか金持ってない? 俺今月ピンチなんだわ」

僕は逆らう勇気もなく、財布から3000円を取り出して渡す。

これで来週までは乗り切れる。

まさに悪といった笑みを浮かべたあといじめっ子は教室を出た。


「……つかれた」


そこで僕は疲れ果てて自分の席に突っ伏す。

蹴られた背中がまだ痛む。



そして僕は気付けば眠りについていた。





「起きてよ」

「え!」


肩を叩かれる感覚がして飛び起きる。

教室は真っ暗だった。肩を叩いたのは何者だ。近くを見ると女の子が立っていた。

これ、また幽霊じゃないだろうな?

疑い半分に僕は彼女を見る。


「だ、だれですか」


すると女の子は薄暗闇の中でずっしりと構えて僕にこう言った。

「不登校の三森って言えば、わかる?」






三森こはるは同じクラスの不登校児だ。

そして僕の奇妙な噂をおそらく知らない唯一の人でもある。

彼女が学校に来ない理由はわからない。

噂だと援助交際してるとか、親に虐待されてるとかろくなことを聞いたことがない。

僕は彼女に対して淡い同情の念を抱いていた。

何故なら僕も、あまりにも誇張しすぎる噂に翻弄されてるからだ。彼女もきっと、僕みたいに苦労してるに違いない。


それにしたって、どうして彼女がここに?

ましてや今は夜に限りなく近い状態だ。


「お願いごとがあってここまで来たの、聞いてくれる?」


三森は僕の困惑など気にせず自分のペースで話し始める。

僕に頼む願いなんて、あるにしたって義理がない。断ろう。

そう思って言葉にする寸前にまた三森は続きの言葉を言った。



「さっき望月を蹴ったあいつを、私の代わりに苦しめて欲しいの」


「えっ」




思えばこれが、僕と彼女の物語の始まりだった。

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