第55話 ガーデニング
間の抜けた内容ではあるが、コーラルはそれに驚いた。コーラルの知る吸血鬼は浮世離れした美しさを持つ吸血鬼の少女達で、彼女達が畑仕事をするのは異様だ。
「まったくわからないものだな、吸血鬼ってのは。そうそう、あんたが提供してくれた情報も役立ってはいるんだが、吸血鬼が日中も動き出したから探索が難しくなっているよ」
コーラルはギルドにダンジョンの情報を伝えた。それは今まで独占していた情報だが、もう彼女には必要がない。ならば全員に伝え生存率を上げたいと思った。実際城の構造や魔物の行動パターンは大きく役に立っているらしい。
けれどあの畑仕事のせいで吸血鬼の行動パターンが変わってしまった。
結果的にこのダンジョンの難易度は上がったらしい。一番強いがろくに行動しなかった吸血鬼が昼間も動くようになったし、なぜか元気そうだ。
今冒険者をしていれば、コーラルが生き残る事は難しいだろう。しかしそんなダンジョンになってしまったのは何が原因なのか。
「……きっと彼は関係ないわね」
コーラルはコウの男女を思い出す。おにぎりを最初に教えてくれたのは彼だ。魔力のこもった鏡を持っていたのも彼だ。そして本来ロゼという吸血鬼が案内する予定だったのも彼だ。
きっと彼は魔物だったのだろう。しかし妙に気がきくだけで、なにかを変えるような魔物ではないはずだ。コーラルはそう思いたい。
■■■
魔王の居城はアルシエルとバレーノの国境付近にある。その城の奥の奥、魔王の執務室のバルコニーに、ロゼは吸血鬼プチトマトの鉢植えを置かせてもらった。ロゼが一番戦う必要があるとすれば魔王の側だ。だからここに置かなくてはならない。夜なので今はあまり世話ができないが、明日から昼にも起きてとても大事に育てるつもりだ。
「んふふ、AB型の血が安定して摂れるなんて、なんて素晴らしいのでしょう。これはもはや血液の宝石箱ですね」
ロゼは鉢植えを見つめてうっとりしている。希少な血が好みだという彼女はやっぱりAB型の血を好むらしい。
「ロゼ、ドレスなんだけどさ、これ前のパーティで着たっけー?」
そこへドレス片手に下着姿のブランが現れる。すぐさまロゼはメイドの顔に戻った。
「まぁブラン様ったら、そんな格好でバルコニーにお出でにならないでくださいまし。飛行系の魔物に見られでもしたらどうなさるのです」
「この辺の飛行系の魔物なら夜は飛ばないと思うよ」
「見ていなくても夜風はお体に障ります。パーティの主役がそれでは困ります」
ロゼはブランをバルコニーから執務室へと押し込む。ちなみにブランは風邪をひかない。ひけなくもないがすぐに治る。
そしてメイドとしての仕事として、ロゼはブランの手にしたドレスを見た。このドレスはまだパーティで着ていないはずだ。
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