第37話 歯車

歯車には夢がある


この小さな工場の歯車ではなく


蒼空を飛ぶ機械の歯車になって


世界中を旅すること



飛ぶところは見えなくても


違った世界にいけばわかるはず



小さな工場の機械でも


天気や季節の空気の違いがわかるから


砂漠の街の乾いた風や


北の国の雪や氷の冷たさを


きっと感じられるはずだ





ある日


工場の機械の中へ小さな石が紛れ込んだ


石は機械のあちこちにぶつかりながら転がって


歯車たちの間に入り込み


砕けて歯車たちのいくつかに


歪みや欠けたところを作った



欠けた歯車のひとつは


蒼空の夢を見る歯車だった



工場の機械は


夢見る歯車といくつかの歯車や部品を交換して


もとに戻った



外された歯車たちは悲しげなため息を漏らしたけれど


夢見る歯車だけは違っていて


次に使われる機械のことを思い


とても嬉しそうだった



けれども


壊れた部品たちは捨てられる


歯車たちは溶鉱炉の火の中で溶かされて


新しいものに生まれ変わることになる




歯車は


自らが溶けかけた


熱い溶鉱炉の中で夢を見る



それは


真っ青な蒼空と


白い雲海の上を飛ぶ


幻のような


とても素敵な夢だった




歯車は思う


次は何に生まれ変わるのだろう




何でもいい


また蒼空の夢を見よう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る