第4話 少年

なぜかどよっとする会場を足早に抜けると、さっきの少年が瞳を輝かせて俺を待っていた。フードの中の顔を覗き込まれ、俺は少し後ずさる。


「お前!すっげーな!!」

「……?」


俺は、すごいのだろうか。たしかに剣に関して誰かに負けるつもりは毛頭ないが俺には経験が足りない。比較対象は最初の控え室のおにーさん達だ。殺意にまみれたあの部屋はもう2度と入りたくないと思うほどに怖かった。


「俺と戦ってくれるんだろ!せっかくだしあそこでやろーぜ」

「構いませんよ」


少年が指で示したのは、闘技場参加者用のグラウンド。そこではすでに知り合いと思しき人達が剣を交えていたり、1人で素振りする人の影が見える。端の方には区切りがついていて、時折ものすごい音が聞こえていた。

スバルが軽快に受付へと声をかけた。


「すみませーん」

「はい、ご利用ですか?」

「あ、俺、参加者じゃないけど使っていい?」

「隣の方が参加者ならば大丈夫です。説明は必要ですか?」

「おねがいしまーす」

「よろしくお願いします」


係の人が教えてくれたルールは一般的なものであった。1つ違うとすれば、殺し合いをしないことと、会場は基本壊れないこと。なんでも魔法でフィールドを覆っているため、深い傷でない限り大丈夫だそうだ。あの音の原因もこれだろう。

あと大事なのは……


「カイリ!説明終わったし中行くぞ」

「すみません。ところでなんで俺の名前を?」

「試合観てたからな。ほら、勝者は名前が出るだろ」

「なるほど」


なんの話をしていたっけ。まぁ、なるようになるでしょ。

俺は練習場に入った後、その場に用意してあった木剣を手に取る。この先の試合のためにもそろそろ慣れないといけない。相棒以外使うのは気が進まないが仕方ない。

向こうに見える少年も木剣を手に携えているが、あれは……。


「よーし。それじゃあいくぞ」

「はい。よろしくお願いします」


すっと少年が距離を詰めてくる。やはりその手にあったのは俺のような片手剣ではなく、両方にヘリがついた両手剣だ。互いの木剣がカンっと鈍い音を立てながら何度もぶつかる。そのたびに生まれる風が、辺りを吹き荒らす。


「お前やっぱつよいな!」

「お前もな」


上、下、首をついたその一瞬を目掛けて反対から胴体を攻める。体を捻った相手に俺も呼応するかのように前に進み、一旦距離を取る。両手と片手では力のハンデがあるため力を受け流しながら剣を交えるしかない。


「次はこっちから!」


そんな言葉と共に先ほどよりスピードを上げて彼の周りを回る。力で勝てない分は速さと小刻みな動きや技術にかかってくる。


「あぶねっ。でもなっ」


急に勢い良く一回転され、俺はその風に弾かれる。とっさに弾かれた先にあった壁を逆に蹴飛ばして跳ね返る。流石にそれは予測できなかったのか、勢いのついた剣を止めたところで、彼の木剣は弾かれて手から飛んだ。


「あーあ。まけちゃった」

「両手剣使うんですね」

「今更だが、ためでいいよ。俺まけてるし〜」


思いっきり肩を下げてしょげるフリをして見せる彼に俺はふっと笑う。いつぶりだろうか。こんなに長く打ち合ったのは。

村で戦うのじゃ手応えがなくなって、いつからか相手は魔物ばかりになった。だが彼らも動きは変わらないし、そもそも強い個体はそんなにいない。


「ありがとう。じゃあ俺も聞いていいか?」

「かまわないよ」

「名前はなんていうんだ?」

「はっ!?」


お前、名前も知らないやつと剣を交えてたのかよ!と少年は呆れたように言った。


「俺の名前はスバルだ。スバル・ペリラム。よろしくな」

「カイリ・レーリア。こちらこそよろしく」


俺はこうして初めての友人を得た。

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生意気な聖剣と旅に出る れい @waiter-rei

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