No.126 さいごのこと

「最期……??」

「ああ、最期さ。君は12年前に母上が急な病気で亡くなったと教えてもらっているだろう??」

「はい」

「あれは嘘なんだ」

「嘘……??」

「本当は君の母上はある人の病気を治すために命を失ったんだ」

「えっ……」

「あの日のことを全て話すよ」


そこからメガネのっぽが語り始めた。

うちは仕方なしにその話に耳を澄ませる。


12年前。

シー族の村にある1人の女とその女が抱えた赤ん坊がやってきた。

その女はフードを深くかぶり、顔のほとんどが見えなかった。

口には真っ赤な口紅。

それだけが見えていた。

抱えていた赤ん坊は大人しく、目を覚ましていたが泣くことはない。

そんな結界を破り、入ってきた見知らぬ女性を私たちは別れてしまったシー族の子孫と判断し、招き入れた。

女性は決して素顔を見せることはなかったが、

メガネのっぽはその彼女に指を指す。

指の先は確かにうちに向いていた。

いや、うちを巻き込むなよ。

そんなこと身に覚えがないぞ。


「うち、重大な病気なんて患った覚えないのだけれど。だいたい、ここに来るのは初めてだ」


いつだってうちは健康で、病気という病気をしたことがなかった。熱が出たのは毒に侵された時ぐらいでそれ以来何もない。

それにシー村ここに来るのは初めて。

サンディの母親になんて会ったことがない。


「そうでしょうね。あの時の殿下はまだ赤ん坊でしたので、記憶がないのは当たり前でしょう」


赤ちゃんの時の記憶。

12年前。

覚えてもいないし、この世界を舞台にしたゲームを知っている前世のうちうちでもアメリアの赤ちゃんのことなんて、知らない。知るはずがない。


「だいたいどこが悪かったのかよ。うちは元気だぞ。不自由ない」

「そりゃあ、そうでしょうね……」


メガネのっぽはうちに向かって無理した微笑みを見せる。


「しかし、赤ん坊だった殿下は当時障がいを持っていた。その証拠として殿下の名前に刻まれています」

「名前……??」

「ええ。そうです。殿下、疑問にお持ちになったことはございませんか?? 自分のミドルネームに」

「C……」


アメリア・C・トッカータ。

ミドルネームに値するCの文字。

聞いたこともないけれど、Cの意味なんて知らない。


「殿下には『C』というミドルネームがございますが、殿下の姉君には別のミドルネーム。しかも、省略されたものではございません」


確かに、うちのねーちゃんたちはみんなちゃんとした(Cもしっかりしているとは思うが)ミドルネームを持っていた。過去の王族たちから全て取ったものであったが、うちと同じミドルネームを持つ者は……。


「ユリアナ元女王……」


彼女とうちは唯一同じミドルネームだったはず。

でも、なんで大おばあちゃんから取ってるのだろうか。

他の人でも良かったのだけれど。






「Cの意味……それは『目の見えない』という意味を指すCeCe」






「なっ!?」

「先生っ!? それは本当なんですか??」

「ああ、本当だ。ここにいるほとんどの者が知っているよ」


メガネのっぽがあたりを見渡すと、周りにいたシー族の者たちはコクコクと頷く。


「殿下の見えなかった目を治すため、サンディ、君の母上が犠牲となったんだ」

「そんな……」


真実を伝えられたサンディは顔こそ見ないが、震えた声から動揺を隠せないようだった。

すると、長老がうちに真っすぐ指をさす。

その指には迷いがないようだった。


「さぁ、サンディ。お前の母親の仇だ。捕らえろ」


長老は顔を俯かせているサンディに声を掛ける。

しかし、サンディがうちの方に正面を向けることはない。


「サンディっ!!」

「僕はそんなことできませんっ!!」


サンディは背を向けたままうちの前で両手を広げる。


「僕は殿下を捕えることなんてできません……」

「ならば、他の者あやつを捕えろっ!! 今すぐにだっ!!」

「なっ!?」


長老の声でシー族たちがこちらに向かってくる。

捕らえようと必死の目。


なんだよ……これ。


その瞬間、頭上にバリアを作り、ジャンプしてそのバリアの上に乗った。

高さがあまり足りなかったのか、シー族の者が下からバリアの上に乗ろうとする。

さらに高いバリアを右側に作り、飛び乗る。

そして、先ほど作ったバリアを解除。


「王女が逃げるぞっ!!」


背後からはそんな声が聞こえたが、気にせずバリアを作っては壊し、シー族の森へと入っていった。

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